最近読んだ本336

『韓国ナショナリズムの起源』、朴裕河著、河出文庫、2020年。

かつて著者(1957年生まれ)が上梓された、

朴裕河著『帝国の慰安婦:植民地支配と記憶の闘い』、朝日新聞出版(2014年)

は、韓国および日本で大きな話題になりました。

わたしは韓国語版と日本語版の中身がやや異なる旨の噂を聞いたことがあり、もしそれが事実だとしたらコメントがむずかしくなりますが、すくなくとも日本語版のほうは通説に真っ向から対峙する見解を提示した良書です。

『韓国ナショナリズムの起源』は『帝国の~』より前に発表されていた評論で、このたび出版にいたりました。

朴氏は、

日韓関係が戦後最悪と言われる今だからこそ、「ここで扱ったことは、時代と空間を超えて言いたかったことでもある。私の関心はただ、他者との『共存』にあり、それを妨害するものは何なのかを探すことにあった」(pp.14)

こうした思いを込められています。

具体的な作業として、『韓国ナショナリズム~』では、韓国にて蔓延している日本への曲解や反日感情をひとつひとつ取りあげ、訂正してゆかれました。

例をあげましょう。

韓国での「過去の植民地支配を謝罪すらしようとしない日本(pp.189)」なる評価には、

実際には、1990年代だけでも、韓国の大統領の訪日、もしくは日本の首相の訪韓など、両国首脳が公式に顔を合わせるたびに反省と謝罪はあった。
たとえば、盧泰愚(ノテウ)大統領が日本を公式訪問した折には、海部首相が「謙虚に反省し、率直に謝罪申し上げたい」と語っている。(pp.190)

きっぱり反論されています。

そして、

韓国兵たちがベトナムで繰り広げた蛮行は、これまでひた隠しにされてきた。(中略)
このことに関連して韓国はベトナムに謝罪したことがあっただろうか?(pp.200)

とまで、お書きになりました。

ほかでも、

私は、高齢者や失職者など弱者の立場にいる人々をいたわる福祉関係の職業が幼い子供たちの憧れの対象になっている日本に、希望を見出している。(pp.115)

韓国がIMFの管理下に置かれたとき、最も多くの支援を惜しまなかった国が日本だった。(pp.170)

日本には韓国のほかにも世界中に数え切れないくらい市場がある。日本が日本文化の開放を要求したとか、侵略を企んだとかいう声は、過度の警戒心が生んだ被害者意識の表れでしかない。(pp.178)

わが国への肯定的評価、むしろそれ以上に韓国社会へ向けた諫言、が目白押しでした。

著者によれば、韓国の人々が有する日本への悪感情の原因のひとつに「50年以上もの(中略)ナショナリスティックな反日教育(pp.32)」がある由です。

だとすると(教育の効果は長続きしますから)両国関係は今後も容易には改善しないでしょう。

個人的に嬉しかったのは、第3章第6項「日本観の原型『菊と刀』を批判する」。

わたし自身、

ルース・ベネディクト著『菊と刀:日本文化の型』、現代教養文庫(1967年)

を、学術書としてはレベルが低いと考えていますので。

金原俊輔

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