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『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』、松永暢史著、扶桑社文庫、2020年。
松永氏(1957年生まれ)は「教育環境設定コンサルタント(pp.24)」でいらっしゃるとのこと。
教育環境設定コンサルタントは「プロの受験指導者、学習指導者(pp.24)」と同義の言葉らしいです。
氏は本書で、お仕事上のご経験を踏まえつつ、子ども時代における読書の重要性を訴えられました。
将来、子ども本人の人生選択を希望通りに叶えるため、絶対的に欠かせない学力を十分につけるという基準で考えると、必ず習慣づけておいてほしいことがあります。
それが、「本を読む」ということです。(中略)
地頭の基礎が作られる10歳くらいまでは、「本」をとにかく与えてほしい。「読書」にかける時間をたっぷり作ってあげてほしいのです。(pp.25)
明快な主張です。
字を読めない年齢の子である場合は「親が主に絵本を『読み聞かせ』する(pp.27)」、子どもは子どもで、黙読一辺倒ではなく「音読を(pp.159)」取り入れてみる……、こんなアドバイスも付け加えておられます。
説得力があり、そして意義深い提案と感じました。
おまけに、
テレビやインターネット、今では子どもが当たり前のように所有しているゲームやスマホ。そうしたものを自由に扱えるようになると、読書が本当の意味で生活習慣として根づいている子ども以外は、ほぼそのあたりから本を読まなくなります。(中略)
そうならないために、10歳までが本好きにするチャンス期間なのです。(pp.48)
納得のご指摘も散見されます。
幼稚園児・小学生らは書物に接してさえいれば学校での成績が良くなる、という論旨でした。
わたしは著者のご意見に共鳴いたします。
では、この本の学問的な価値はどうか?
失礼ですが、高くありません。
著者の個人的な思いと自己体験それに有名人のエピソードばかりが綴(つづ)られており、データの記載がほぼ皆無だったからです。
東大生の親に行ったあるアンケートでも、共通して「子どもの頃にさせていた」のは「読み聞かせ」でした。(pp.28)
どうにかデータと呼べるのは、せいぜい上記ぐらい。
ただし、出典が書かれていないうえ、容易には信じがたいアンケート結果ともいえます。
松永氏はこうした啓蒙書を執筆する際の心構えが不十分だったと断じざるを得ませんでした。
いろいろなデータが伴っていたら、『将来の学力は10歳まで~』は、さらなる説得力を有していたでしょう。
硬い批評をおこないましたけれども、子どもたちを本好きにして失うものは(書籍代以外)ないわけで、わたしは幼少期に読書習慣を身につけさせようとする大人の働きかけは大事、と考えます。
金原俊輔