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『香港と日本:記憶・表象・アイデンティティ』、銭俊華著、ちくま新書、2020年。
香港の歴史および現状を解説した書籍です。
標題とはやや異なり、香港・日本の相互関係のみをあつかった内容ではありませんでした。
しかし、香港人の著者(1992年生まれ)が上掲書を執筆された已(や)むに已まれぬお気もちは、わたしなりに分ります。
中華人民共和国からの「同化」を実感するようになると、過去に当たり前であったような自由、法の支配、公正への追求、自らの言語、教育、生活文化などを、自分たちが失っていることに直面した。(pp.13)
ニュースなどによると、2020年現在、香港市民は巨大な中国に飲みこまれてしまう激浪に抗(あらが)い、おひとりおひとりができる役割を必死に果たしていらっしゃるところです。
東京大学大学院に在籍中の著者がおこなえることのひとつが「ドキュメンタリーを出版して日本世論に訴える」という方法だったのではないでしょうか。
わたしは応援いたしたく、本書を購入しました。
さて、香港においては、前世紀の終わりごろ以降、中国からの移民や観光客がぐんぐん増えだしたそうで、そんな状況を地元の人々は喜んでいなかったらしいです。
日本を例にするならば、この数字は人口の14パーセント、つまり1680万の移民がある一つの国から日本列島に来て、さらにその国からの訪日客が年間延べ1億1600万人から延べ5億8000万に増えたということだ。(pp.184)
これはたしかに閉口するでしょう。
その結果、
中国大陸からの来訪者をターゲットにしたデモで、彼らを「イナゴ」と呼んだり、彼らのスーツケースを蹴ったり、大陸から来た女の子を怖がらせて泣かせたりするニュースが流れたこともある。(pp.85)
如上のような事態に至ってしまったとのこと。
両者の融和は至極困難と思われます。
いっぽう、かつて香港を統治していた日本にたいする現地の皆さまの心情は、好意的もしくは「『無色』で、(中略)意図的に取り上げて批判(pp.236)」しなくなっている由でした。
ホッとする情報です。
香港では、日本に旅行に行くことをよく「里帰り」(返郷下)と言って、ふざけることがある。(pp.213)
おそらく「里」という語に「旧・宗主国」の意味合いが含まれているのだろう、と想像しました。
いずれにしても親近感を抱いてくださっているみたいです。
日本をめざす旅行者が多くなり、
2018年に訪日人数は200万人を超えた。これは人口の27パーセントに当たる数である。(pp.214)
実人数は世界第4位なものの、人口比で見れば「世界最多」です。
時間の流れにともなって日本に支配された恨みを和らげ、恨むどころか、わが国へ愛着を寄せてくれている香港。
今後どうなってゆくのでしょうか。
誠に無念ですが、明るい未来は予想できません。
わたしは重い気分になりながら『香港と日本』の最終ページを閉じました。
金原俊輔