最近読んだ本574:『中国仰天事件簿:欲望止まず やがて哀しき人々』、楊逸 著、WAC、2023年

1964年、中国ハルビン市のお生まれで、1987年に来日され、お茶の水女子大学卒業後に作家としてご活躍、芥川賞も受賞なさった、楊逸(ヤン・イー)氏。

2023年現在、日本大学芸術学部で教鞭をおとりになっているそうです。

氏は中国のネットメディアで取りあげられた事件を調べ、上掲書をとおし日本の読者に紹介してくださいました。

はじめの2、3件を知っただけでもう唖然とし言葉を失ったほどの衝撃でした。(中略)
次々調べていくと、なぜか「荒唐無稽度」が増す一方でした。
「驚愕が止まらない」、やがて「直面しがたい」、ある種中国人であるがゆえのつらい感情に襲われ、これ以上知りたくない気持ちにもなりました。
私は悩んで、病んでしまいました。(pp.1)

わたしは、どれほど「驚愕」させられる話が続出するのだろうかと、恐る恐るページを繰りました。

そして読み終え、たしかに珍妙な事件がつぎつぎ出てきたものの、そうインパクトが強いわけではない、という感想に至りました。

楊氏ご自身が中国出身でいらっしゃるため、わたしのような非・中国人よりも事件をつらく重くお受け止めになられ、引用文を記されたのかもしれません。

SNS投稿で知人らに優雅な結婚生活を自慢し、離婚したのちも嘘の自慢を継続、関係する業者に被害をあたえ詐欺罪に問われた、王媛なる女性のエピソード、

王媛の「シンデレラストーリー」が、同僚たちに原子爆弾に負けないほどの衝撃を与えた。(pp.199)

氏はこんな文章をお書きになり(いうまでもなく表現の自由は心から認めます)、日本の被爆地で生まれ育ったわたしがカチンときたことと似たり寄ったりなのでしょう。

閑話休題。

『中国仰天事件簿』内の諸事件に通底していた傾向は、庶民のお金渇仰、見栄、SNS濫用、でした。

以上の3つは、中国人たちだけに見られるのではなく、日本人もまた、さらには全世界の人々が、大同小異であると考えます。

これはわたしにおいて本書に対する驚愕が極度でなかった別の理由となるかもしれません。

最後のコメントです。

書中、いろいろな手口の詐欺が登場。

詐欺も他の犯罪も絶対にダメなわけですが、それにしても、語られた詐欺行為は警察の捜査が入ればすぐに露見しそうなものばかりで(果たして、どの犯人もすみやかに逮捕されました)、なぜ不本意な結果が予想できるのにそういう悪事を犯してしまうのか、わたしには分りませんでした。

この瞬間の満足・快楽こそすべてであり、ひと月後や1年後のことは心配しない、かの国にはそういうタイプの人が多いのでしょうか?

金原俊輔