最近読んだ本405

『世界一ポップな国際ニュースの授業』、藤原帰一、石田衣良 共著、文春新書、2021年。

国際情勢におくわしい藤原氏(1956年生まれ)と石田氏(1960年生まれ)の対談をまとめた、堅苦しくない読物です。

藤原氏は東京大学大学院の政治学教授という要職に就かれている、本邦最高峰レベルの専門家。

石田氏は作家でいらっしゃり、テーマに関し驚くべき精通ぶりのかたでした。

両者がアメリカ合衆国を語り合っていた折、

藤原  ミドルクラスですと所得が上がるとメソジストの教会に通うようになるんです。中間層より下の所得ですとバプティスト教会が多いです。同じプロテスタントでもいろいろあるんです。
石田  アメリカだと社会的階層によって住んでいる地域が分かれていますからね。通う地区の教会も変わっていく。(pp.41)

プロテスタント者が所得に応じ教派を変えてゆくという傾向を、当方は(アメリカに長く住んでいたにもかかわらず)存じておりませんでした。

このように、あまり周知されているとはいえない話が、書中つぎつぎに出てきます。

藤原氏は是々非々の態度で日本・諸外国を眺められていました。

たとえば「慰安婦問題」につき、

藤原  韓国で語られている強制連行についての議論には誇張があります。『帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い』(2014年、朝日新聞出版)で朴裕河(パクユハ)さんが丁寧に分析しておられたように、戦時下の性暴力として捉えるべき問題でしょう。(中略)
拉致(らち)のようなことがあったかなかったかと問われれば、私は戦局が悪化した後にはあったと考えます。(中略)
戦時性暴力という視点で見れば、中国では日本軍による大規模なレイプがありましたし(後略)。(pp.108)

わたしは上掲文の正否を判断する学識を所持していないものの、たしかにあり得ることで、氏は冷徹かつ勇気あるご発言をなさったと敬服しました。

石田氏のほうは、高い質問力を駆使しながら、対話の順調な展開を牽引されます。

納得できるお考えが多く、

石田  自分が好きなものにしがみついて、10年頑張っていれば、その周辺で食えるようになりますよ。(中略)若い人に会うと言うんですよ。20代なんて棒に振っちゃえって。自分が本当に好きなものに出会えたのなら、10年はやってみて、30になってから仕事を始めたっていいんです。(pp.240)

わたしもまさにそう思っており、引用を読んだ際「得たり賢し」的に賛同しました。

おふたりのおかげで、われわれ読者は、わが国におけるフランス人気が衰えたため雑誌が「パリ特集」を組んでも売れなくなってしまっている(122ページ)、EUは個々のヨーロッパ人から乖離しており嫌われている(144ページ)、アメリカがイランと全面対決をする場合おそらくそれが第三次世界大戦の引き金になるだろう(193ページ)、こうしたことを学べます。

『世界一ポップな国際ニュースの授業』……、本当に「世界一」「ポップ」なのかどうかはさておいて、良質な「国際ニュースの授業」ではあり、標題に憤慨すべき偽りはない、と感じました。

金原俊輔

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