最近読んだ本408

『日本の教育はダメじゃない:国際比較データで問いなおす』、小松光、ジェルミー・ラプリー 共著、ちくま新書、2021年。

「日本の学校教育はダメだ」
そのように言う人はたくさんいます。あるいは「日本の学校教育は創造性を育(はぐく)まない」「日本の学校はいじめの温床になっている」、そういう話をしばしば耳にしますが、日本の学校教育を褒める人はあまり多くありません。(pp.9)

本当にわが国の教育はダメなのか?

著者おふたりは諸外国のデータと日本のデータを綿密に比較なさいました。

このように意義ある疑問を発出させ、データに基づきしっかり分析をおこなう、非常に大事な研究態度だと思います。

データが背景にない通説と対峙する姿勢自体が行動主義心理学者のわたしにとって共感できるものであり、著者たちの克明かつ堅実な文章にも好意をおぼえました。

そして、彼らの分析結果は、

国際比較のデータによって描かれる日本の学校教育の像が、ずいぶん肯定的(後略)。(pp.211)

「日本の中から見た日本の学校教育」の像は、ぱっとしないかもしれないけれども、「日本の外から見た日本の学校教育」の像はかなり素敵(後略)。(pp.212)

でした。

データ情報がそう語っているわけですので、われわれ日本人は喜んで受け入れるべきでしょう。

各論を見てゆくと、本邦の子どもたちは、

1 わりに「学校生活を楽しんでいる(pp.121)」

2 学力が「欧米諸国よりも高い(pp.23)」

3 創造性は「まずもって申し分ない(pp.33)」

4 いじめは「程度が相対的に小さい(pp.128)」

5 学校教員の能力は「世界最高レベル(pp.161)」

とのことです。

ほかにもあれこれの発見が紹介されていました。

わたしは日米両国の小中学校でスクールカウンセラーをしていた関係で、前記5点は実感していましたし、なかんずく日本の学校の先生がたの素晴らしさには敬服しておりました。

『日本の教育はダメじゃない』を通しデータの裏打ちを得た気分になります。

重要な書物であることは疑いようがなく、教師のみならず保護者たちにもぜひ読んでほしい内容でした。

なお、学力は日本にかぎらず他の東アジアの国々も高い状態でした。

本書が抱える唯一の(そして致命的な)短所は、書中まったく「知能」について言及しなかった点。

説明します。

日本人および東アジア人の知能指数が世界最高峰なのは国際的知能検査のたびに明らかになる不動の事実です。

すると、書内で述べられた日本人・東アジア人の学力の高さは、かならずしも教育の良さが原因ではなく、たんに「知能が高い結果、学力も高くなっている」という順当な流れに過ぎないとも考えられます。

もし日本の知能指数がそれほど際立っていないにもかかわらず学力が世界上位であるような場合にこそ「教育の力」「教育の賜物」とみなせ、「日本の教育はダメじゃない」と断言できるのです。

学力にとどまりません。

知能指数が高い人たちは、低い人々に比べると、学校生活は楽しいだろうし、創造性も発揮しやすく、その子らにたいし教師側も能力全開で教えることができるはず、つまり、この本のテーマ総体にわたって知能が影響していると言えるのではないでしょうか。

だから教育学者諸氏に心理学の知能研究を参照するようわたしはあれほど……。

金原俊輔

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