最近読んだ本411

『現代民主主義:指導者論から熟議、ポピュリズムまで』、山本圭著、中公新書、2021年。

民主主義という政治システムの一種を、これまであまたの学者が考察してきました。

『現代民主主義』はそんな諸賢の学説を展望した専門書です。

さまざまな理路が紹介されており、たとえばドイツの法学者カール・シュミット(1888~1985)の場合、

自由主義は本来の民主主義を損なってさえいるのではないか。そこで彼の関心は、民主主義を自由主義から切り離し、民主主義を純粋なものとして取り出すことに向けられる。(pp.41)

創見に富んでいると感じられました。

いっぽう、往年のオーストリア=ハンガリー帝国に生を受けたヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950)なる経済学者は、

民主主義はそれ自体としては目的でも理想でもない。それはあくまで方法であり手段である(後略)。(pp.64)

こう主張したらしいですが、わたしには意味不明。

「目的」「理想」および「方法」「手段」は、排他的概念ではないと考えますので。

具体例をあげると、2021年現在の香港市民には、民主主義は目的・理想の方法・手段といえるのではないでしょうか。

以上のように、書中、個人として承服できない見解がいくつか登場しました。

それはそれでかまいません。

たんにこちらが承服するだけの基礎を有していなかったせいであるのかもしれないからです。

そもそもわたしが本書を手に取ったのは、昨今よく耳にする「ポピュリズム」について学びたかったため。

上記件、著者(1981年生まれ)の解説は、こうでした。

ポピュリズムは、本邦のメディアでは「大衆迎合主義」と訳されることが多く、大衆相手の人気取り政策や無責任政治の象徴として考えられている。しかし、こうしたイメージは、ポピュリズムの理解としては不十分なものだ。
そもそもポピュリズムとは、19世紀アメリカの「人民党」の政治的立場を指すものであった。人民党が既成政党から無視されていた農民層のあいだに支持を広めたように、ポピュリズムは腐敗したエリート主義を批判し、人民主権の原理に回帰する、そうした政治のあり方を指す言葉である。(pp.208)

知らなかった歴史的な経緯を含めて知識を得ることができました。

といいつつ、わが国には(欧米において色濃い)「エリート主義」などないと思いますし、ないのだったら「腐敗」しようがありません。

引用箇所は日本社会に適用する説明としては不十分な気がします。

また、文中の「大衆迎合主義」「人民主権の原理」以上ふたつの語をかさねれば「民主主義」とほぼ同義になり、つまりポピュリズムって民主主義のことなのかという、著者が「ポピュリズムは民主主義のある側面を忠実に体現している(pp.208)」このように記述しながらも実際のところ重きを置いていないと想像された方向に、当方の思案が展開してしまいました。

最後に全体の読後感を述べると、わたしがむかし接した、

小室直樹著『悪の民主主義:民主主義原論』、青春出版社(1997年)

に、『現代民主主義』であつかわれた自由主義と民主主義の区別や議会政治と民主政治の齟齬が書かれており、論の立てかたも『悪の民主主義』のほうがわかりやすく、その結果「山本書より小室書の説得力が上」という意見に達しました。

金原俊輔

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