最近読んだ本417

『劣化する民主主義』、宮家邦彦 著、PHP新書、2021年。

民主主義の劣化だけではなく、日本の外交や国際情勢をも論じた、視野がひろい書物でした。

わたし自身は「現代における民主主義の問題」を知りたくて上掲書を手に取ったので、本コラムではそちら方面に関連した話題を選び紹介します。

まず、第1章内に置かれていた「日本の議員は『立法しない』」項の、

国会は国権の最高機関であるにもかかわらず、日本の国会議員は真の意味での「立法者(ローメーカー)」ではない。政府と官僚組織が作成する「法案の承認者」に成り下がっているのだ。(中略)
「議員立法」という特殊用語が示すとおり、通常、議員は「立法しない」のが日本の実態だ。(pp.37)

上記「政府と官僚組織」は「行政府」であって、「立法府」ではありませんから、とても変な形といわざるを得ないです。

なぜそうなるのか。

個々の国会議員がもつ政策スタッフが事実上ゼロに近いからだ。(中略)
法案づくりの主導権を握る数十人の政策スタッフをもつことが当たり前のアメリカ連邦議会議員とは雲泥(うんでい)の差なのである。(pp.38)

現状の早急な是正が必要でしょう。

つづいて、第2章。

自由民主主義の最終的勝利で人類発展の「歴史は終わった」と断じた学者がいる。かと思えば、著名コラムニストがITの飛躍的発展と経済のグローバル化により「世界はフラット化」しつつあると言い出した。いまからわずか20年ほど前の話だ。(pp.79)

前者は、

フランシス・フクヤマ著『歴史の終わり』、三笠書房(1992年)

なのですが、後者はわかりません。

立花隆著『インターネットはグローバル・ブレイン』、講談社(1997年)

を指しているのかなと想像したものの、立花氏はふつう「コラムニスト」とは見なされず、判然としませんでした。

おなじページの引用をつづけます。

迷走するのは米トランプ政権や英国のEU(欧州連合)離脱劇だけではない。冷戦時代までは、基本的に多くのことが事前にある程度予測可能だった。ところがいまは欧州が、中東が、そしてアジア地域までもが、等しく不確実性を高め、従来とは異なる、経済的、軍事的合理性を欠く動きを示し始めたことが強く懸念されるのだ。(pp.79)

まさしく2021年3月現在、アジアでは香港およびミャンマーの民主主義が瓦解しだしており、「自由民主主義の最終的勝利(pp.79)」など幻想にすぎないとする著者(1953年生まれ)のお考えは妥当と思われました。

最後に、やはり第2章の「最終責任を負うのは政治家である」項。

優秀な学生が国家公務員をめざさなくなって久しいが、高級官僚の大多数はいまも国民のため、重要な仕事に日夜、黙々と取り組んでいる。(中略)
要は、いかに官僚を使いこなして国民生活を豊かにするかだが、この最終責任を負うのは公務員ではなく、政治家なのである。(pp.152)

おっしゃるとおりです。

けれども、政治家諸氏には選挙という関門があるため、責任を負ったがために選挙区における評価が下がってしまうような事態は、どのかたとて避けたいのではないでしょうか。

さすがに明治時代の貴族院を復活させるべきとまでは言いませんが、同院が採用した「勅選議員」の仕組み、つまり議員の終身任期制度には、わずかな意義が存していたみたいだ、と感じました。

むろん、政治家がきちんと最終責任をとったことで、かえって地元の称賛を博するのでしたら、それに越した状況はありません。

金原俊輔

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