最近読んだ本420
『2030年「シン・世界」大全』、渡邉哲也 著、徳間書店、2021年。
上掲書は、アメリカ合衆国第46代大統領ジョー・バイデン氏(1942年生まれ)が、今後いかに動いて行かれるかの見通しから始め、2030年までのうちに諸外国にて起こるであろう変化を、2021年時点での最新情報に基づき予測した一冊です。
日本が世界で生じ得る動きにどう対峙すべきかの助言も含まれていました。
もろもろの話題のなか、まずは、民主党ビル・クリントン政権の副大統領であり、2000年アメリカ大統領選にて敗北したアル・ゴア氏(1948年生まれ)のエピソードを見てみましょう。
政界から距離を置き、環境活動家として環境ビジネスに進出。(中略)
炭素取引市場、太陽光発電、バイオ燃料、電気自動車、持続可能な養殖、水なしトイレなどに投資をするファンドを立ち上げる。(中略)
選挙敗北後に120万ポンド(約1億8000万円)だったゴア氏の資産は、「環境」によって、推定6000万ポンド(約90億円)にまでなったことが明らかになった。(pp.37)
英国メディアの記事より抜粋された文章でしたので、お金の単位が「ドル」ではなく「ポンド」になっています。
ゴア氏は「環境政策」が莫大なカネを生み出すことを体現したのだ。以降、「環境政策」は民主党の一部の巨大な利権となった。(中略)
トランプ氏が「パリ協定」から離脱した本当の目的は、民主党の「環境利権」を切り離すことだった。環境問題がアメリカの「国益」を損ない、一部の巨大な「利権」になっていることを知っていたからだ。(pp.38)
バイデン時代、わが国に環境関連の米国発プレッシャーが襲いかかってくる状況が考えられ、そしてそれは「きれいごと(pp.38)」を装い、実は生々しい利権争奪が裏側で蠢(うごめ)いている、と想像されるわけです。
もうひとつ、アメリカ合衆国および中国のいさかいに言及した文章がありました。
第二次世界大戦前のドイツと日本、終戦後のソ連(当時)と、アメリカは「敵国」があったときに最大の能力を発揮することを歴史は証明している。アメリカの最大の不運は1989年に冷戦が終結し、ソ連が崩壊してしまったことだ。
明確な「敵国」を失ったアメリカは、グローバリズムとともに世界での影響力を低下させていった。(中略)
その意味で、中国はアメリカの理想的な「敵国」ということになる。(pp.261)
ということは、今後、必然的または偶発的に、米中の軍事衝突が発生してしまうのかもしれません。
そうなったら日本は巻き込まれるでしょう。
米中のあいだに立って(英国・EU・オーストラリア・インドなどとも力を合わせ)深刻な事態にいたらせない調停を鋭意試みてみるべきですが、同時に、調停が功を奏さなかったときのための備えも肝要です。
以上のような重たい話に加え、著者(1969年生まれ)はすこし予想外のご意見も開陳なさっていました。
「帝王学」の教育は幼いころから学ぶ必要があるのは、北朝鮮に限らず万国共通だ。(中略)
アメリカは長くWASPと呼ばれる人たちが社会の上層部を占有していた。ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィアなど歴史のある街に住み寄宿学校からハーバード大学、エール大学に通い弁護士やバンカー、政治家になるのがWASPの一つの王道だ。
当然、幼なじみのコミュニティはビジネスで生きてくる。(中略)
日本に生きたままでは、この構図の中には入れない。麻生太郎氏は学習院大学の出身で、卒業後アメリカのスタンフォード大学大学院に留学した。ところが祖父の吉田茂が、
「アメリカではだめだ。クイーンズイングリッシュを学べ」
と助言をしたことから、麻生氏はロンドン大学政治経済学院に留学する。(pp.165)
本のタイトルは失念してしまったものの、以前、犬養道子氏(1921~2017)が、ご自著で引用文にちかいお考えを述べられています。
それはたしか、日本の名門に生まれ育った人々は海外の要人たち・政治家たちと公私で接するときに怖(お)じけない、なので良い、みたいなご発言でした。
犬養氏は家系、渡邉氏は留学歴と、焦点をあてられたポイントは異なっていましたけれども、一般的に言いづらいことをあえておっしゃったのは、世界各地でそういう現実がたしかにあるでしょうから、勇敢かつ大事だったと思います。
金原俊輔