最近読んだ本491:『定年後の遊び方:心理学からのアプローチ』、赤井誠生 著、毎日新聞出版、2022年
〇 勤労者が定年後の生活にたいし不安をおぼえるのはなぜ?
〇 定年した人々にとって遊びは大事な活動か?
〇 退職後、刺激が乏しい日々を過ごしたら、当人はどうなってしまう?
〇 定年退職者が何かに興味をもち興味を持続させるには、その何かがどんな性質を帯びていることが望ましい?
〇 テレビの『水戸黄門』や『サザエさん』など、ワンパターンでマンネリな番組がいつまでもおもしろく感じられる理由は?
〇 若い世代を没頭させているゲームがどのような工夫で没頭を引きだしており、当該工夫は高齢者層が何ごとかに熱中するためのヒントになり得るか?
本書ではこうしたさまざまな問いへの回答が記されています。
そして、それらに心理学の解説も付されている……。
赤井氏(1952年生まれ)が大阪大学大学院で教鞭をおとりになっていた心理学者だからです。
いまは同大学の名誉教授。
つまり、ご自身も定年退職者でいらっしゃるわけです。
わたしにしてみれば赤井氏は同世代人かつご同業、そのおかげで『定年後の遊び方』をにこやかに読み進みました。
老年心理学を紹介なさりつつ「老化(pp.36)」を語られたくだりにて、氏は、
残った能力をうまく使っていけば、あるいは補助装置を適切に利用すれば劣化のかなりの部分は防げると思う。
マスコミの健康食品や保険のコマーシャルは老化によるデメリットを過大にアピールして不安をあおり、がっぽり儲けているのではないだろうか。私はそうビビることはないと思っている。(pp.39)
学識経験者であって当事者でもあるかたが、読者の気もちが楽になるようなご発言をなさったのは良いこと、と考えます。
代表的な遊びのひとつ、ギャンブル、を主題にした項では、賭ける行為を褒(ほ)めもせず貶(けな)しもせず、
賭け事を、学習心理学的に解釈すると、自主的な行動に対していつもではなく時々ご褒美が与えられるという間欠強化(部分強化)に当たる。間欠強化されたものはなかなか消えにくい行動であり、癖になりやすいものだ。だからいったんはまると抜け出すのには苦労することになる。(pp.98)
わたしが専門とするオペラント条件づけの「間欠強化(部分強化)」を正しく使用してくださっており、多くの一般心理学書では「自主的な」の文言が省略されがちですので、さすがと敬服いたしました。
いずれにしても定年後の遊びは必須みたいです。
じゃあ遊ばなきゃ……。
以上、興味ぶかく肩がこらない内容だったのですが、女性の定年退職者を念頭に置いた考察が不十分だった点は残念で、この本の短所になっているといえるでしょう。
金原俊輔