最近読んだ本511:『あなたもだまされている陰謀論とニセ科学』、左巻健男 著、ワニブックスPLUS新書、2022年
元・法政大学教授で理科教育や科学コミュニケーションがご専門の左巻氏(1949年生まれ)による、読みやすい啓蒙書です。
陰謀論とは、ある事件や出来事について、事実や一般に認められている説とは別に、世に隠された不正な謀略とか策謀によるものであると解釈する考え方です。(pp.3)
ニセ科学とは、科学ではないのに「科学っぽい装いをしている」あるいは「科学のように見える」にもかかわらず、科学とは呼べないものを指します。(pp.5)
インターネットが普及した結果、陰謀論だのニセ科学だのが一気に拡散し浸透してしまう昨今、この種の図書出版は大事でしょう。
わたし自身は、陰謀論の愚を解きほぐす読物にはほとんど接していませんが、ニセ科学を糾弾した書籍でしたらかなり目をとおしてきました。
どうしてかというと、なにより刺激的かつおもしろいからで、しかも自分の誤った知識を訂正することができて重宝なのです。
別の理由は、わたしが身を置く心理学界ではニセ科学が横行しており、科学を貴ぶ行動主義心理学者として理論武装をしたのち対抗する必要があったためです。
3番目の理由ですが、大学で教えていたころ「学生がニセ科学を信じている場合は正したい」という気もちが生じ、それをするにはどんなニセ科学が流行っているのか把握しておかねばなりませんでした。
こうした流れで『あなたもだまされている陰謀論とニセ科学』をひもといたわけです。
さて、野菜が自ら発する防虫成分を「天然農薬」と呼ぶそうで、「エイムス教授らが天然農薬のうち52種類を調べたところ、27種類は発がん性物質(pp.192)」だったらしいです。
無農薬で育てた野菜のほうが虫の食害などで天然農薬が多くなっているとも考えられます。(中略)
「虫食いこそが無農薬の証拠」というセールストークを口にする有機農法関係者がいますが、虫食い野菜や虫食い果物は健康上のリスクが高まります。(pp.192)
知りませんでした。
ニセ科学を断罪する書物類には必ず良い情報が含まれていて、ありがたいです。
おまけに、左巻氏は発達障害児にサプリメントを摂らせる代替療法を疑問視なさりつつ、
発達や能力に応じた支援とともに、個人がもつひとつ、ないし複数の障害特性に配慮したきめの細かい行動療法などを早期に実施することが、妥当性の高い対処法と考えられています。(pp.188)
わたしの学派の行動療法を評価してくださり、いやが応でも氏への好感度が高まりました(笑)。
以上で『あなたもだまされている~』評を終了します。
余計な付録として、わたしがこれまでに読んだニセ科学批判のうち、勉強になった作品をランキング形式で紹介させていただきます。
日本人が執筆したものに限定し、また、著者が重複して登場しないよう配慮しました。
すでに当コラムであつかった文献は除外しています。
第1位 池田清彦 著『科学とオカルト』、講談社学術文庫(2007年)
第2位 池内了 著『疑似科学入門』、岩波新書(2008年)
第3位 大村政男 著『血液型と性格』、福村出版(1990年)
第4位 菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸、飯田泰之 著『もうダマされないための「科学」講義』、光文社新書(2011年)
第5位 安斎育郎 著『科学と非科学の間』、ちくま文庫(2002年)
第6位 菊池聡 著『超常現象の心理学:人はなぜオカルトにひかれるのか』、平凡社新書(1999年)
第7位 竹内薫 著『なぜ「科学」はウソをつくのか:環境・エネルギー問題からDNA鑑定まで』、祥伝社(2009年)
第8位 村上宣寛 著『「心理テスト」はウソでした。:受けたみんなが馬鹿を見た』、日経BP社(2005年)
第9位 と学会 編『トンデモ本の世界』シリーズ、洋泉社(1995年~)
第10位 長山靖生 著『千里眼事件:科学とオカルトの明治日本』、平凡社新書(2005年)
わたしは、ニセ科学を信奉しているような人々はこんな本を読まないだろう、と想像します。
事実、上記ランキングにお名前が出てきた著者・団体は類似作を多数出版していらっしゃり(ですので、既述のとおり「著者が重複して登場しないよう」気をつけました)、それはニセ科学提唱者やニセ科学愛好家との闘いが一向に収束しないからでしょう。
心理学の世界では、嬉しいことに、わが学派がじわじわニセ科学を駆逐しだしているところです。
金原俊輔