最近読んだ本512:『20ヵ国語ペラペラ:私の外国語学習法』、種田輝豊 著、ちくま文庫、2022年
種田氏(1938~2017)は、表題どおり、20の言語に通暁していた人物です。
南方熊楠(1867~1941)が18~22ヵ国語を話せたといいますので、種田氏の外国語力は日本が生んだ大学者に匹敵するレベルでした。
しかも、ほぼ独学で習得されたそうです(この点は南方も同様)。
「数箇国語に通じる人(pp.151)」は「ポリグロット(pp.151)」と呼ばれ、『20ヵ国語ペラペラ』は、ポリグロットになった異才の回想、ポリグロットを目指すための手引き、的な内容の読物でした。
発音の問題に関心を示しだしたわたしは、辞書の発音記号の説明の欄を徹底的に読みあさった。(pp.48)
ラジオで聞ける英語、フランス語、ドイツ語などの語学講座には、すべて毎日欠かさず耳を傾けた。(pp.88)
外国人から直接に聞いた表現法で、「なるほど、こんな言い方をするのか」と感心するものがあったときは、すぐに頭の中で繰り返し、できるだけ早い機会にそれを自分でも使ってみること。(pp.118)
最良の方法と信じているのは、基礎的な文章を丸暗記してしまうことである。(中略)初歩的段階では、少なくとも500文例くらいは暗記してしまうのである。(pp.190)
ご自分のご工夫を自信たっぷりに紹介なさっています。
参考になりはしましたが、わたしのごとき凡夫は著者みたいな意欲・姿勢を有しておらず、すこし困惑させられました。
高校生や大学生たちが読むべき書物であるのは間違いないです。
ところで、『20ヵ国語~』はもともと1969年に執筆・出版されたもので、文庫化が2022年。
そのため古くなってしまっている記述があります。
たとえば、「ペンパル(pp.35)」、「ソノシート(pp.140)」。
意味を解せない若者が多いでしょう。
前者は「文通相手」のこと、後者は「ビニール製レコード盤」のことです(って、現在、レコード盤すら知らない年齢層が主流でした……)。
いっぽう、まだ当てはまる話題および依然として大事な問題も、そちこちで語られていました。
外国語学校に至っては、外人というだけで、とても教師の資格はないと思われるような先生もいる。(中略)ドイツ人が英語を教えているところもある。これではだめである。(pp.218)
この状況はあまり改善されていないのではないでしょうか。
自分が、学んでいる語に十分に上達したいと思ったら、ブロークンは絶対に使わないように努力しなければならない。(pp.193)
上記ご意見、米国留学をした自己体験からも賛成いたします。
わたしは本書を読み、著者が語学に全生活を捧げたのに対して、自分はそこまで学問に没頭しなかったと、おのれを情けなく思いました。
また、努力を怠らなければやがて目標に到達できることを、再認識させてもらいました。
5年前に79歳で亡くなられた種田氏。
おそらく悔いのない人生だったでしょう。
最後に、
1945年の4月、住まいが広島兵器廠(しょう)に近かったため、強制疎開を命ぜられた。父は(中略)母と私と二人の妹を連れて、住みなれた広島をあとにした。網走に落ち着いてから、わたしたち一家のものは、なれない農業に従事しなければならなかった。その8月に、戦争は終わった。(pp.19)
引用した文章以外に書くべき事柄があったのでは?
金原俊輔