最近読んだ本534:『「自由な国」日本 「不自由な国」韓国:韓国人による日韓比較論』、シンシアリー 著、扶桑社新書、2022年

シンシアリー氏は、1970年代生まれの韓国人男性。

わが国に住んでおられます。

氏のご著書は、常に視線が冷徹で、知的、そして穏当……、わたしはこれまでどの作品にも好感をおぼえました。

たとえば、

「最近読んだ本59」

「最近読んだ本369」

今回の『「自由な国」日本 「不自由な国」韓国』は、日本におけるご自身の日常と日韓関係の話題を交互に綴(つづ)った内容です。

特筆すべきは「ラムザイヤー教授の論文(pp.3)」事件の顛末が記されていること。

当方も関心を抱いていた騒ぎです。

そこで、本コラムではこの件に焦点を絞り、事実の流れを整理したうえで、僭越(せんえつ)ですがわたしの意見を書きます。

まず、事実の流れ。

(1)2020年12月、米国ハーバード大学法科大学院ジョン・マーク・ラムザイヤー教授が、『International Review of Law and Economics(インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス)』誌オンライン版にて、「太平洋戦争当時の性契約(pp.46)」なるタイトルの論文を発表した

(2)論文要旨は、戦時中に日本軍の慰安所で働いていた朝鮮半島出身の「慰安婦という存在が、女性と売春業所の店主との間の契約によって成立していた『売春の一つの形だ』(pp.43)」というもの

(3)その結果、論文は「慰安婦は性奴隷ではなかった(pp.45)」と断じている

(4)論文を受け、韓国社会は「狂乱(pp.51)」状態に陥り、同国の「マスコミは連日のようにこの件でラムザイヤー教授への個人攻撃(pp.51)」をおこなった

(5)「ラムザイヤー教授に、ヘイトメールが殺到(pp.64)」した

(6)ハーバード大学では「在学生は参加せず、数人の現地住民は参加したものの、ほぼ全員が『韓国人と同行した人』(pp.61)」による「抗議集会(pp.61)」が開かれた

(7)「韓国の独立有功者協会はラムザイヤー教授の入国禁止を申請し、韓国の与党が『ラムザイヤー教授の論文に学問の自由などない』と公言(pp.51)」した

(8)「ハーバード大学近くに慰安婦像を作るという韓国人(韓国系)団体まで出て(pp.61)」きた

(9)「ハーバード大学内外の韓国人、韓国系米国人、及び韓国の主張を支持する一部の米国人学者たちは、ラムザイヤー教授の謝罪と論文の撤回を要求(pp.60)」した

(10)韓国の「サイバー外交使節団VANKは、米国ハーバード大学総長(pp.174)」に「ラムザイヤー教授の論文の撤回、および大学レベルでの糾弾を要求(pp.174)」する旨のメールを送った

(11)2021年2月、ハーバード大学総長は「論文は『学問の自由』の範囲内で、問題ないとする趣旨の立場を示した(pp.174)」

(12)2021年3月、論文は『インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス』誌の紙媒体版(第65巻)にも転載された

(13)2022年1月、ラムザイヤー教授はハーバード大学法科大学院発行の『John M. Olin Center Discussion Paper』誌(第1075巻)に「論文を非難する人たちに対し、反論する文を掲載(pp.226)」した

……『「自由な国」日本~』で得た情報を中心にまとめました。

以下、この問題に関し、わたし自身がどう感じたかを示します。

(1)インターネットの『インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス』ホームページで確認したところ、同誌は論文投稿者用に倫理規程を明示しており、また、投稿されてきた全論文の査読をおこなっている

(2)査読とは、専門家たちが論文の質や倫理性をチェックして、発表の価値があるかどうか、発表が妥当であるかどうか、を判断する審査

(3)つまり、論文を執筆したラムザイヤー教授は、学問上の手続きをきちんと経ていた

(4)そのような論文で導き出された結論に納得できない人々は、感情的反発をするのではなく、当該結論を覆(くつがえ)す別の研究結果を提示すべき

(5)提示を怠り、「謝罪要求」「論文撤回要求」「抗議集会」「入国禁止措置申請」「ヘイトメール」などの手段に訴えるのは的外れであって、そうした行為は「天動説、地動説」「進化論」などで揉(も)めた時代のそれと変わらない

(6)既述(1)~(5)を踏まえ、わたしは、韓国側の言動は不適当かつ学問の自由への侵害と思量し、ハーバード大学総長の声明に賛同、ラムザイヤー教授の反論を支持する

……こういうふうになります。

独自の見解は何もなく、ただ科学の一般ルールに基づいているだけのコメントでした。

なお、往時、ご自身が望まない経緯で日本軍の従軍慰安婦となられたすべての女性に、哀憐(あいれん)の意を表します。

金原俊輔