最近読んだ本546:『強権的指導者の時代:民主主義を脅かす世界の新潮流』、ギデオン・ラックマン 著、日本経済新聞出版、2022年
各国における現役の「強権的指導者」18名の人柄や政治手法を論じた本です。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、中国の習近平総書記、といった誰もが知る面々が語られたいっぽう、ハンガリーのビクトル・オルバン首相、ポーランドのヤロスワフ・カチンスキ大統領など、日本では知名度が低い、すくなくともわたしはまったく知識を有していなかった、政治家らも含まれました。
英国『フィナンシャル・タイムズ』紙にお勤めの著者ラックマン氏(1963年生まれ)によれば、上記の指導者たちには、
共通する4つの特徴がある。個人崇拝、法の支配の軽視、自分は真の大衆を代表している反エリートであるという主張(ポピュリズム)、そして恐怖とナショナリズムで政治を動かしているということだ。(pp.22)
そのうえ、ほとんどの登場人物が最初はかなり民主的なリーダーとして出発し、やがて独裁者へと変身してゆく……、氏はそんな共通項もご指摘になりました。
書中すべてのページが興味深く、たとえば、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領およびメキシコのアンドレス・ロペスオブラドール大統領を評した章では、
ボルソナロは、新型コロナウイルスは鼻風邪程度だと主張した。ロペスオブラドールは、六つ葉のクローバーを振りかざし、これがウイルスから自分を守ってくれると主張した。そして、国民には、今後もパーティやレストランに行くよう勧めた。(中略)
両国は、新型コロナウイルスによって最も深刻な被害を受けた国となった。(pp.261)
原因(トップの無知)と結果(コロナによる国家的被害)のつながりが明白みたいです。
つぎに、強引な麻薬撲滅策で賛否両論を巻き起こしたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の場合、
ドゥテルテの大嘘は、フィリピンが「麻薬国家」になる危険性があるという主張だった。専門家たちはこの発言を冷笑した。(中略)国連が発表した2016年のデータによると、フィリピンの薬物濫用は世界平均を下回っており、覚醒剤を使っているのは人口の約1%である。(pp.210)
あれほど大騒ぎして取り締まったほどですから、わたしはてっきりフィリピンは麻薬の蔓延が深刻な国と思い込んでいました。
ちがう由。
以上、『強権的指導者の時代』は、現在の世界そして今後の世界を把握するために目をとおしておくべき読物です。
それにつけても、本書で批判された諸氏が失敗だけを繰り返しているわけではなく、国民に資するなかなか立派な施政とてやっており、ということは、ある種の業績をあげるには強権・独裁がけっこう役立つのではないか、わたしはこんな本来もつべきではない感想ももちました。
1945年当時、世界にはわずか12カ国の民主主義国家が存在した。それが2002年には92カ国になり、史上初めて独裁国家の数を上回った。(中略)
だが、民主主義の衰退が始まっている。世界の「自由度」について年次報告書を発表しているフリーダムハウスは、2020年発表の報告書で世界の自由度が15年連続で低下したと指摘している。(pp.9)
強権や独裁に役立つ部分があるからこそ「自由度」低下が起こっているのかもしれません。
むろんこうした動きは押しとどめるにしかず、わたしに押しとどめる名案などないものの、ただ言えるのは、国際連合を再編して実際的な力を所持させるのが肝要ではないか、いざとなったら国連が諸国に本格介入できる態勢をつくっておくのが良いのではないか、ということです。
金原俊輔