最近読んだ本545:『邱飯店交遊録:私が招いた友人たち』、邱永漢 著、中公文庫、2022年

邱永漢(きゅう・えいかん、1924~2012)は、台湾生まれで、日本へ帰化し、作家および実業家として活躍した男性です。

東京帝国大学経済学部ご卒業。

作家の部分を語ると、1956年の直木賞受賞後、経営や投資に関する本の執筆でベストセラーを連発しました。

わたし自身は邱の作品を読んだことがなかったものの、若かったころ彼のお名前はよく耳にしていました。

非常な食通でもあり、ご自宅で、奥様そして「お抱えコック(pp.182)」がつくった台湾料理・中華料理のコースを、知友らにふるまっていたそうです。

そんな邱のお宅を、文藝春秋社の社長だった池島信平(1909~1973)が「邱飯店」と名づけました。

上掲書は著者が邱飯店に招待した人々の思い出をつづった内容です。

顔ぶれがすごく、

 佐藤春夫(1892~1964)

 子母澤寛(1892~1968)

 小林秀雄(1902~1983)

 檀一雄(1912~1976)

 五味康祐(1921~1980)

……こうした文壇の大御所たち。

加えて、

 大屋晋三(1894~1980)

 本田宗一郎(1906~1991)

 盛田昭夫(1921~1999)

 江副浩正(1936~2013)

……財界人も少なくありませんでした。

おそらく皆さん口が肥えていたでしょうけれど、邱飯店で出てくる御馳走に舌鼓を打った模様です。

『邱飯店交遊録』は、のんびりした雰囲気をもつ作品であり、

食べることに楽しみを見出せないなんて気の毒な人だなあとは思う(後略)。(pp.11)

健康で、長生きの人は、たいてい、大食いの人が多い。(pp.39)

といった、「食べること」を楽しみ「大食い」でもある当方が嬉しくなる文章も、頻出しました(引用した「長生き = 大食い」説が事実なのかどうかは存じません)。

きっと邱永漢は人生を味わいつくして旅立ったのだろうと想像・慶賀いたします。

金原俊輔