最近読んだ本552:『天才たちの未来予測図』、高橋弘樹 編著、マガジンハウス新書、2022年
天才的な頭脳のもちぬしが政治または社会設計に携わる例として、2022年現在でしたら、台湾のデジタル発展部部長(日本の大臣に相当)オードリー・タン氏(1981年生まれ)が、思い浮かびます。
古くは、ドイツでワイマール公国の宰相を務めたヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749~1832)が該当するのではないでしょうか。
タン氏の知能指数は180、ゲーテのそれは210、と言われています(ゲーテの時代に知能検査はなかったので、左記の数値は彼の業績をもとに推定されました)。
わが国の聖徳太子(574~622)は、『十七条憲法』などをつくったうえ、もしも、8~10名の人々が同時に請願した内容をすべて把握し、的確に回答したという逸話が本当だとした場合、政治に関与した天才の範疇に含むべきでしょう。
さて、本書に登場するのは「世界的に注目される業績を残している各界の第一人者(pp.17)」「4人の天才(pp.20)」です。
みなさん日本人で、男性3名、女性1名、実際に世界の注目を浴びているのかは疑わしかった(なにしろ世界は天才だらけ)反面、どなたもが天才的でいらっしゃることは十分伝わってきました。
ご発想・お言葉に、わたしのような常人には及びもつかないキレがあります。
とりわけ成田悠輔氏(1985年生まれ)と小島武仁氏(1979年生まれ)。
成田氏は米国イェール大学助教授を、小島氏は米国スタンフォード大学教授を経たのち東京大学マーケットデザインセンター長を、なさっています。
おふたりとも経済学者です。
まず、成田氏は、今後の日本がとるべき戦略として、
今の日本は、二重に厳しくて、お金という面でも人材という面でもトップランナーになれる分野はほぼありません。
そういう状況でとれる戦略というのは、逆張り路線しかないかもしれない。みんなが注目していない、なんでこんなところにお金を割くんだという領域を切り拓いていくしかありません。
わかりやすくいえば、これからの日本は「テレビ東京路線」でいくべきなのかもしれません。(中略)アメリカや中国が24時間テレビみたいな大きい番組をドカンとやっているときに、日本では蛭子能収(えびすよしかず)さんがバスの旅をしているみたいな状態をイメージしてます。(pp.44)
なるほど。
本質的な理解をしていないかもしれませんが、わたしは、世界各国が電気自動車の開発競争に血眼になっているとき、トヨタ社は電気自動車のみならず水素自動車の製作にも注力している、この件を連想しました。
さらに、いっそう本質外れかもしれないものの、米国ハリウッドの大作実写映画に対し日本はアニメで勝負、というイメージも……。
つづいて、小島氏は、企業の人事制度の研究をしているかたです。
人事異動は、
最近は社員に無理やり従わせることはできません。たとえば、転勤を命じても、共働きで、子どももまだ小さいので、単身赴任なんてできないといった問題が出てくるようになっているわけです。
今進めているのは、そういった歪みを「マッチング理論」で解消していくプロジェクトです。まずは社員に「どの部署で働きたいか」をちゃんと聞いていく。さらに、部署のほうにももちろんニーズがあるので、「誰が欲しいか」もヒアリングする。その情報をもとにアルゴリズムによって、社員にとっても、部署にとっても、一番いい配属先を決めてあげる。そういう仕組みを開発しています。(pp.128)
人そして組織の幸福を生みだすご研究みたいです。
ただ、マッチング理論もアルゴリズムも、わたしの脳みそではよく分りませんでした(笑)。
心理学を学んだ当方は、少なからぬ天才たちが世の中で伸びず、能力を発揮できない状況を知っています。
社会の損失となってしまいますので、ぜひ存分に活躍していただき、平和や安定や発展を導いてほしく、『天才たちの未来予測図』の登場人物4氏がそれをなさりつつある事実に喜びをおぼえました。
金原俊輔