最近読んだ本577:『幕末明治 鬼才列伝』、出久根達郎 著、草思社文庫、2023年

二宮金次郎(1787~1856)

天田愚庵(1854~1904)

幸田露伴(1867~1947)

江戸時代から明治時代にかけて活躍した「鬼才」たちを紹介した本で、上記の3名が主たる登場者です。

ほかにも、3名と交流があった、清水次郎長(1820~1893)、山岡鉄舟(1836~1888)、増田宗太郎(1849~1877)、陸羯南(1857~1907)、樋口一葉(1872~1896)、田村俊子(1884~1945)、島本久恵(1893~1985)、等々、膨大な数の人が語られました。

著者・出久根氏(1944年生まれ)はひとつひとつのエピソードを文庫1ページ分にまとめていらっしゃり、読む側は速やかにページを繰ることができて、疲れず、読者本位のご工夫をしてくださったと感じます。

わたしはむかし、

森銑三 著『明治人物閑話』、中公文庫(1988年)

という随筆をひもといたのですが、森書のほうも小刻みな話の展開で、出久根氏はこれを参考になさったのではないかと想像しました。

いずれにせよ、歴史情報があふれ出してくるような作品『幕末明治 鬼才列伝』。

個人的には二宮金次郎に一番惹きつけられました。

出久根氏は、第1章「無私の超人、二宮金次郎」の冒頭、

二宮金次郎像が建っていた。なつかしや、あの、薪(まき)を背負って本を読みながら歩いている少年像である。昔はどこの小中学校にもあった。(pp.7)

おっしゃるとおり、わが母校にも建っていました。

けれど、

少年金次郎が読んでいた本は、一体、何の本か。(pp.7)

こちらにはそんな疑問をおぼえる頭脳がなく、そもそも二宮が何を果たした偉人なのかすら知らず、知ろうとさえしませんでした(本は「儒教の書『大学』(pp.7)」だった由)。

そして、出久根氏は二宮の見事な生涯を書きつづられてゆき、わたしはこれほどまで完成度の高い人物が存在していた事実に感動させられました。

金次郎は(中略)一日みっちりと働いて、夜になると本を読んだ。(pp.12)

極貧に生まれた金次郎が、身を粉(こ)にして働き、無一物からついに家を再興した話は、美談として評判になった。(pp.14)

勤労および篤学の結果として自分の家を再興しただけではありません。

長じたのち「地域再生(pp.7)」に尽力しました。

村人はせっせと働きだした。金次郎は例によって道を造り、橋をかけ、農具を与え、借金を返済させた。「民大いに感銘し励む」(pp.41)

彼は「六百余の町村を復興した(pp.52)」そうです。

たしかに「超人」といえるでしょう。

本書によれば、内村鑑三(1861~1930)は二宮金次郎を「代表的日本人」と讃えたとのことでした。

余談ながら、わたしは小学生だったころ金原明善(1832~1923)が主人公の子ども向け伝記に接する機会があって、その余韻なのか、いまでも彼に敬意を抱いています。

二宮金次郎に人柄や業績が似ているため、ひょっとすると二宮の章にて金原の話題が出てくるかもしれないと期待したものの、それはありませんでした。

金原俊輔