最近読んだ本586:『定年前と定年後の働き方:サードエイジを生きる思考』、石山恒貴 著、光文社新書、2023年
これまで「定年したのち、人々はどんな生きかたをしてゆけば良いのか?」という問題を考察した本があまた出版されています。
わたしは若かったころ、
加藤仁 著『おお、定年:150人の新たな選択』、文藝春秋(1985年)
加藤仁 著『待ってました定年』、文藝春秋(1988年)
加藤仁 著『夢ある定年』、文藝春秋(1990年)
定年シリーズを読んだのが当該分野における読書体験の嚆矢(こうし)でした。
以来、折に触れ読みつづけ、そして2023年7月現在は67歳、一般的な定年の年齢をかなり上回っております(笑)。
ところで、わたしが目をとおしてきた読物は、概して読者の感情に働きかけ、勇気や希望をあたえてくれる展開でした。
しかるに今回の『定年前と定年後の働き方』は、学術的な内容です。
著者の石山氏(1964年生まれ)は「ウェルビーイング(pp.33)」「エウダイモニア(pp.33)」「社会情動的選択性理論(pp.56)」「ジョブ・クラフティング(pp.83)」「ギグワーク(pp.164)」といった難しい言葉をどんどんお使いになり、そのうえ「参考となる考え方やデータ(pp.225)」も多数提示なさいました。
すこし硬すぎるような……。
とはいえ、分りやすい記述もなくはありません。
たとえば、江戸時代、隠居後つまり定年後に勉強し、ついには日本地図を作成した、伊能忠敬(1785~1818)の有名な史実。
伊能忠敬は、現在の千葉県香取市で酒造家の商人として活躍したが、49歳で隠居した。その後、深川に住み、蔵前にある暦局で幕府の天文方の高橋至時に師事し、熱心に天文・暦学を学ぶ。そしてもともとは地球の大きさを推定したいために、蝦夷地の測量を幕府に願い、許可される。それがきっかけとなり日本全国を測量、これが日本地図の作成につながったそうである。(pp.60)
石山氏は伊能の生きかたを「自分にとって意義ある目的を重視した例(pp.61)」と評価しました。
「サードエイジになって新しい取り組みを始めたシニアが生きがいを得た事例(pp.142)」とも。
以上に加え、書中あちこちで紹介される、各種日本企業が高齢社員を活用するためおこなっている取り組みは、シニアである自分にとって、経営者である自分にとっても、参考となる情報でした。
登場した企業のご努力やご工夫に敬意を表します。
ただし、本書の結論は、
シニアにとっては、サードエイジをどう生きたいのか、それを心置きなく選択することにこそ意義があるのではないだろうか。(pp.225)
脱力感をおぼえるありきたりなものでした。
病気・事故で何人もの同級生を亡くしたわたしは「サードエイジを迎えただけでも儲けもんだろう」と思っています。
金原俊輔