最近読んだ本608:『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した:潜入・最低賃金労働の現場』、ジェームズ・ブラッドワース 著、光文社未来ライブラリー、2022年

ため息をつきながら読了しました。

イギリスにおける低所得者たちの重苦しい現実を紹介したドキュメンタリー。

ジャーナリストのブラッドワース氏が、身分を隠し、アマゾンやウーバーなどで働いた体験を綴(つづ)った作品です。

まったく同じ趣向の潜入ドキュメンタリーとして、

横田増生 著『アマゾン・ドット・コムの光と影』、情報センター出版局(2005年)

が、ありました。

ブラッドワース氏および横田氏のどちらの本でも、アマゾンの配送センターにおける苛酷な就業状況が描写されています。

『アマゾンの倉庫で絶望し~』に出てきた印象的シーンは、ブラッドワース氏がイングランド中部に所在するアマゾンの倉庫で目撃したもので、

若い中間管理職の男……が年配の男性を怒鳴り散らしていた。若い男は指を振りながら、想像できるかぎりのあらゆる罵詈雑言を年配の男性に浴びせた。(中略)
矢面に立たされた男性は、少なくとも60歳を超えていた。緊張した面持ちで顔面蒼白になった彼は、残酷な攻撃の波の下で立ちすくんだ。(中略)
彼はよろよろと歩いて駐車場に行き、小型のニッサン・マイクラのほうに向かった。(中略)
だらしない身なりの老婦人が運転席のドアからささっと出てきた。悲しみに打ちひしがれた男性の顔をじっと見つめ、彼女はダッフルコートのポケットからハンカチを取り出し、相手に駆け寄った。(pp.70)

同世代のわたしは身につまされ、怒りをおぼえました。

こんな勤め先だからでしょう、アマゾンでは、

仕事を始めてもすぐに辞める人があまりに多いため、新しい人員の募集が絶えることはなかった。しかし、私が話を聞いた地元のイギリス人のほとんどは、しばらくすると仕事場の状況に耐えられなくなって辞めたと語った。(pp.54)

それほどにきついわけです。

しかし、不況のせいで、辞めても次の仕事が見つからず、人々の財政は徐々に悪化してゆき、

今日のロンドンではどこへ行っても富者と貧者が肩を並べ合って生活しているように見えるが、それはさまざまな慈善団体、シンクタンク、政府機関のデータにもはっきりと現われた事実でもあった。2010~12年に国家統計局が行なった富・資産調査の分析によると、ロンドン市民のもっとも豊かな上位5分の1は平均で178万ポンドの財産を所有していたが、もっとも貧しい下位5分の1の財産は平均でわずか4000ポンドだった。(pp.292)

「2016年の為替相場を参考に1ポンド150円(pp.24)」として計算すれば、それぞれ、178万ポンドが2億6700万円、4000ポンドは60万円、になります。

現代イギリスのあまりに厳しい現実。

本書では、アマゾン以外の職場の重労働も、若い人たちや年配の人たちの就職難も、東欧からの移民たちの苦闘も、詳述されました。

根本に横たわる大きな問題として、著者は一部の大企業が「インターネットなどを通じて単発の仕事を請け負う『ギグ・エコノミー』という働き方(pp.9)」を悪用しているとお考えです。

たしかにそう言えるのでしょうが、わたしはギグ・エコノミーであれなかれ、社員を使い捨てすることを躊躇しない企業のありかたに疑問を感じました。

いずれにしても読みつづけるのにつらさが伴う内容です。

金原俊輔