最近読んだ本633:『大学教授こそこそ日記』、多井学 著、三五館シンシャ、2023年
多井氏(仮名、1961年生まれ)は、とある大学の教授です。
そして上掲書は、「大学業界の裏表(pp.5)」や「リアルな大学教授の実態(pp.5)」を「赤裸々に描いてみた(pp.5)」、内幕暴露ものでした。
過去に、複数の「三五館シンシャの日記シリーズ(pp.4)」が出版されており、わたしが読んだのは『大学教授こそこそ日記』以外では、あと一冊だけです。
宮崎伸治 著『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』、三五館シンシャ(2020年)「最近読んだ本410」
『出版翻訳家なんて~』も、当該「日記シリーズ」で紹介されている他のご職業も、どれもがつらそうなお仕事ばかり。
そういうのに比べれば大学教授なんて楽なほうではないでしょうか?
英語の授業中、岡川君が隣の学生と話していた。(中略)岡川君の話がさらに続いているので、私は再度注意した。(中略)岡川君が机を叩いて立ち上がった。
「多井、てめぇの汚ねぇ研究室にはあとで行ってやるから、邪魔するな!」(pp.62)
これは、わたしは大学教員としては体験していないものの、中学校・高等学校で働いていたスクールカウンセラー時代でしたら上記程度のやりとりなどしょっちゅうでした。
今日は終日、斉藤さんと一緒にM市内の主要高校めぐりなのだ。(中略)1日で6つの高校を回る予定だが、午前中の2校を終えた段階で汗びっしょりで、ワイシャツが肌に貼りついている。(pp.66)
わたしも高校めぐりは好きでありませんでした。
とはいえ(考えるまでもなく)ほとんどの飛び込み営業ほどきつくないはずです。
教授会はどんなに短くても1時間はかかるし、8時間という長丁場も経験したことがある。(pp.146)
かなり稀である「8時間」を語られても……。
以上、日記シリーズの中で、本書に限っては失敗企画だったと感じます。
いっぽう、書中で叙述されている多井氏と奥様とのご夫婦関係がとても麗しく、奥様のご逝去に氏が心底参っていらっしゃるご様子に胸を打たれ、共感をおぼえました。
それまで肉体に生じていた異変が、今度は精神に襲いかかってきたのだ。
最初に異変を感じたのは講義中だった。妻の葬儀を終えて2カ月後のことだった。いつもどおり講義をしていると、どこかから淀んだような気持ちが押し寄せてきて心がふさいでいく。「マズイ、マズイ。しっかりと講義をしなくては」と思っているあいだに、心の中は言いようのない不安感に占拠される。それと同時に、しゃべっている自分の声がだんだんとかすれていく。(pp.197)
わかります。
わたしも妻の没後、大学でボーッとしたまま講義をおこないましたから。
多井氏は「精神科を受診する(pp.200)」という適切な対処をなさいました。
加えて、お時間があるときに、ご自分で簡単な読書療法も試みられてはいかがでしょう。
愛妻が急逝した学校の先生や学者の物語として、
ジェイムズ・ヒルトン 著『チップス先生 さようなら』、新潮文庫(1956年)
リチャード・P・ファインマン 著『困ります、ファインマンさん』、岩波現代文庫(2001年)
この辺りが支えになると思います。
マンガの場合、亡妻と教師の話ではありませんが、
一色まこと 作画『花田少年史 1~5』、講談社(2006年)
を、お勧めいたします。
金原俊輔