最近読んだ本648:『「長生きする人」の習慣、ぜんぶ集めました。』、工藤孝文 監修、ホームライフ取材班 編、青春新書、2024年
この種の読物では、たとえば「100歳を超えているAさんは毎日ビーフステーキを食べている、だからビーフステーキは長寿に有効だ」みたいな、乱暴な主張がなされがちです。
なぜ乱暴かというと、20歳の男女1000人に研究参加をあおぎ、毎日ビーフステーキを食べてもらう、そして毎日お魚を食べる(ビーフステーキは全く食べない)人たち1000人および食生活になんら縛りを課さない人々1000人にも研究に加わっていただく、数十年後もしくは半世紀後、上述3グループの健康状態や寿命を比較する、というような科学的手続きを経ていない非科学的言説だからです(わたしが述べたのは科学的手続きの一例に過ぎず、他にも比較方法はあります)。
また、Aさん個人に目を向けた場合、たしかにビーフステーキのおかげで長寿を保っているのかもしれませんが、逆に、Aさんは100歳まで生きる強靭な身体を有しているからこそ日々ビーフステーキを食べることができる、つまりビーフステーキ食が長寿の秘訣なのではなく、ビーフステーキ食は長寿に至らせている体力が派生させた結果である、と解釈することも可能です。
それでは『「長生きする人」の習慣~』は、どうだったか?
さまざまなデータにきちんと基づいた内容で、巻末には「参考文献」「参考論文」「参考ホームページ」が明記されており、わたしは信頼に値する書籍と感じました(すこしだけ「Aさんビーフステーキ論」に近い文章が含まれていました)。
そして本書の特長は、各章内にある小題を読むだけで中身が推察できる点。
「やっぱり、生涯現役で働くことが、体も心も元気で長寿の秘訣(pp.19)」
「ホルモンの研究で明らかに。幸せな人ほど長生きする!(pp.35)」
「納豆のアンチエイジングパワーが、老化を抑制する『オートファジー』を発動する!(pp.68)」
「健康で長生きする人は、果物の皮をむかないで食べている!?(pp.88)」
「紅茶が好きなオーストラリアの高齢女性は、なぜ骨折しにくいのか?(pp.92)」
「あのおじいさん、貧乏ゆすりなんかして…。でも、そんなクセが寿命を長くする!?(pp.104)」
「月1回、近場に小旅行。脳の海馬が刺激されてボケにくい(pp.143)」
「長寿ゆえ天下を取れた徳川家康。名高い『健康オタク』の主食は『麦めし』だった(pp.166)」
……こんなふうに。
わたしも参考にいたします。
さて、本書が深刻視していたのは「糖化(pp.75)」の問題でした。
小題「長生きする人は、アジフライより、アジの刺身を選ぶ(pp.75)」によれば、糖化は「体を老化させる大きな要因のひとつ(pp.75)」であり、
体のたんぱく質が余分な糖と結びつき、体温によって加熱されて劣化する現象のことをいう。(中略)
糖化は体中のさまざまな組織で起こり、終末糖化産物(AGEs)という厄介な物質を作り出す。(中略)
やがて骨粗鬆症や動脈硬化、白内障、心臓や腎臓の病気、肌のシミやシワなどを引き起こしてしまう。(pp.75)
とのこと。
大事なご指摘です。
されど、「AGEs」含有料理の代表例として、アジフライが語られてしまいました。
アジ料理の場合、最もAGEsの少ないのが刺身やたたき。これに対して、おいしそうに色づいたアジフライにはAGEsがたっぷり含まれており、食べ過ぎを控えたい料理ということになる。(pp.76)
当方がアジフライ好きである事実はさておいて、わが長崎県の松浦市は「アジフライの聖地」と銘打ち観光客誘致やアジフライ販売の全国展開を期しています。
松浦市民たちの意気込みを思うと「余計なことを書いてくれた」、内心こう舌打ちせざるを得ませんでした。
とはいえ、科学の知見は尊重すべき。
同市ご関係者は「アジの刺身(もしくは、たたき)の聖地」への方向転換を検討されてみてはいかがでしょう……。
金原俊輔