最近読んだ本502:『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか:食材と料理のサイエンス』、稲垣栄洋 著、新潮文庫、2022年

著者(1968年生まれ)は「雑草生態学」を研究されている静岡大学大学院教授。

植物に関する専門知識を駆使して本書を執筆なさいました。

身近で興味深い話題が書きつづられています。

まず、表題になっている、ひと晩置いたカレーの件。

じつは、ジャガイモが大きな役割を果たしているのです。
ジャガイモに含まれるデンプンは、粘度が強くとろみがあります。(中略)
できあがったカレーを置いておくと、このジャガイモのデンプンが少しずつ溶け出し、カレーにとろみをつけます。するとカレーの粘度が高まり、カレーを食べたときに舌の上に残りやすくなります。そのため、カレーの味を強く感じるのです。(pp.57)

とのことでした。

もっと先のページでは、

地中海沿岸にその起源を持つキャベツは、古くからヨーロッパを中心に栽培されてきました。
ところが、今ではヨーロッパよりも日本のほうがキャベツを多く食べています。日本のキャベツの生産量は、農業国であるフランスの9倍にもなるというのですから、驚きです。(pp.111)

こんな話も。

たしかに、わたしは(ヨーロッパではないものの)長く住んだアメリカ合衆国のレストランでキャベツを食べた記憶がほとんどありません。

せいぜいコールスローサラダに入っていたぐらいでしょうか?

著者のおかげで気づいていなかった向こうの文化に気づかされました。

そして、

紫キャベツの色素であるアントシアニンは、もともとは植物の体を守るための物質ですが、抗酸化作用があり、老化の防止や生活習慣病の抑制など、人間の健康にも良い物質であることが知られています。(pp.23)

これはどうも紫キャベツを買ってくる必要があるみたいです。

さらにページが進むと、

私たちの身の回りの野菜は、ほとんどが外国原産です。たとえば、ダイコンは地中海沿岸が原産地ですし、ナスやキュウリはインドです。その中で、フキやウドと並んで、ワサビは数少ない日本原産の野菜です。(pp.162)

なるほど。

つぎの段落で著者も指摘されたように、だから英語でワサビのことを「Wasabi」というわけですね……。

食をとおして世界がつながっていること、生活の知恵をつかい過去の人々が食材を貴んだこと、植物が進化の結晶であること、などを思う、良い読書になりました。

唯一の不満は巻末の解説です。

印度カリー子なる「スパイス料理研究家」がお書きになっているのですが、『一晩置いたカレーはなぜ~』の解説はそっちのけで私見を誇示したうえ、稲垣氏のお考えを修正し、ご自分が東京大学大学院に在籍する事実を忘れず記していて、わたしはなんだか鼻白みました。

普通の解説を読みたかったです。

稲垣氏または編集者が人選を間違えてしまったのでしょう。

金原俊輔