最近読んだ本671:『その医療情報は本当か』、田近亜蘭 著、集英社新書、2024年

わたしは上掲書みたいな医療や健康に関する読物をある程度定期的に読むよう心がけています。

なぜかというと、インターネットの普及にともない、われわれは以前よりも医療・健康情報に接しやすくなっており、ただし、情報には怪しげなものが多数含まれていて、わたしの場合、怪しいと気づかずに信じ込んでしまっている可能性があるかもしれないからです。

今回は『その医療情報は本当か』をひもときました。

参考になった箇所が少なくありません。

たとえば、「第3章 『うつ病の再発率が60%』は本当か(P. 39)」では、「60%」説が人口に膾炙(かいしゃ)しているけれども、「60%」と結論するにあたって観察期間がどれくらいに設定されていたのか、何をもって病気再発の基準としたのか、小規模の研究結果を土台にして導きだされた数字に過ぎないのではないか、こうした疑問が残る、と記されています。

ごもっともと感じました。

そのあと、

うつ病の再発率について、決して悲観的になる必要はありません。
うつ病が改善して間もない時期は再発に十分注意する必要がありますが、観察期間が長くなるにつれて、再発のリスクは徐々に低下していくと考えられるのです。(P. 46)

読者たちが安心できる文章がつづいています。

著者である田近氏(1972年生まれ)は、京都大学医学部所属の精神科医。

良い本をお書きになったと思います。

統計学の話題も語られました。

統計学では、Aという原因がBという結果を生むことを「因果関係」、AとBが何らかの関係を有していることを「相関関係」と呼びますが、このほか「疑似相関(見かけの相関)(P. 96)」なる用語も存在します。

実際には因果関係がないにもかかわらず、交絡因子Cを介して、あたかもそれがあるかのように見える(後略)。(P. 96)

こんな勘違いを指しています。

田近氏がお示しになった疑似相関の具体例、つまり勘違いの具体例は、「アイスクリームの売り上げが増えると水難事故の数が増える(P. 96)」。

そんなことはありません。ここには「気温」という交絡因子が関係しています。すなわち、気温が高いとアイスクリームの売り上げは増え、また、泳ぎに行く人が増えることで水難事故が増えるわけです。(P. 97)

簡にして要を得たご説明でした。

上述のご説明により、ある種の人々におけるサプリメント依存や民間療法信奉などに疑似相関が関与しているであろうことが想像されます。

山田さん(仮名)が健康増進サプリを毎食後に飲んで元気になった、体力がついた……、左記のケースを考えてみましょう。

山田さんはこれまで日々の食事回数が不規則だった、しかし、サプリを飲むため毎日3食をきちんと摂るようになり、そのおかげで元気になり体力もついた、けっしてサプリの効果ではなく、規則正しい食生活が「交絡因子」として働いた、こうなるのではないでしょうか?

にもかかわらず高額なサプリを継続購入するのは、まるでお金を捨てているかのごとき行為。

何かを妄信する前に「自分は交絡因子に惑わされているのではないか」と冷徹に検証してみる態度が必要です。

以上、感想を述べました。

最後に私事です。

「エビデンスに基づく医療」=「EBM(中略)」という考えかた、用語は、1990年、カナダの研究者のデイビッド・サケットが提唱し、ゴードン・ガヤットが名づけて以来、世界に広まりました。(P. 115)

エビデンスとは「証拠・根拠・証言(P. 115)」を意味する英語。

引用文に登場した1990年、当方はアメリカ合衆国の大学院でカウンセリングを学んでおり、そのころエビデンスという言葉が医学界・看護界・カウンセリング界などを席巻した状況をよくおぼえています。

専攻していた行動療法が「1950年代からとっくにエビデンスに基づいていた」と、改めて脚光を浴びた現象も見聞しました。

ですが、サケットやガヤットというお名前は、『その医療情報は~』で初めて知りました。

金原俊輔