最近読んだ本674:『力道山未亡人』、細田昌志 著、小学館、2024年
プロレスラーであり実業家でもあった力道山(1924~1963)、日本航空のスチュワーデスとして働いていた田中敬子氏(1941年生まれ)。
ふたりは1963年6月に結婚しました。
ご結婚のとき田中氏は21歳。
しかし、半年後、同氏が22歳だった1963年12月に、夫は急死してしまいました。
上掲書は、田中氏の人生と力道山の人生とを交錯させながら、とりわけ田中氏の懸命な未亡人生活を語ったノンフィクションです。
わたしがこれまでに卒読した力道山の評伝は、
村松友視 著『力道山がいた』、朝日文庫(2002年)
上記一冊だけ。
『力道山がいた』の読書中、たいして没頭できなかったので、『力道山未亡人』のほうもあまり期待せずにページを繰りだしました。
ところが嬉しいことに、本書は予想外のおもしろさだったのです。
おもしろく感じた最も大きな理由は、若い女性が配偶者に先立たれ、あまつさえ「約8億円(現在の価値で約30億円)の負債を背負う(P. 175)」状況に至ってしまった経緯に多大な関心をもったため。
そして、田中氏が相続を放棄しないで完済に取り組んだ、その気概や責任感の強さに敬服したのが、ふたつ目の理由です。
さらに、自分が知っているプロレスラー・プロレス関係者・芸能人・政治家たちがぞろぞろ登場してくることでも本書を読むスピードが加速しました。
著者の細田氏(1971年生まれ)が突っ込んだ取材をなさって下さったおかげです。
購入を後悔しない書物で、なによりもわたしにとって初耳の話題がたくさん紹介されていて、嬉しく思いました。
初耳の話題とは、
(1)アントニオ猪木氏(1943~2022)が力道山にスカウトされた当初、力道山は猪木氏を大相撲の高砂部屋に預け、力士にしようと考えていた
(2)田中敬子氏は中学生時代「青少年赤十字大会」に参加し、大会活動を通じてジャーナリスト大宅壮一(1900~1970)の娘であり自身もジャーナリストまた評論家として活躍した大宅映子氏(1941年生まれ)と知り合い、親しくなった
(3)田中氏が高校生だったころ、氏のお宅に(サザン・オールスターズの)原由子氏(1956年生まれ)およびそのご家族が同居しておられ、田中氏が原由子氏の子守をしていた
……などです。
こうした逸話を散りばめつつ田中氏がお金と闘う話が進んでゆき、最後はなかなかのハッピーエンドでした。
JR水道橋駅西口を出て、東京ドームを背に専修大学の方角に1分ほど歩くと、新日本プロレスのオフィシャルショップ「闘魂SHOP」はある。(中略)
店の奥に設えられたレジカウンターには20代の男性スタッフとお揃いの新日本プロレスのジャンパーを着た白髪の女性が立っていた。
田中敬子である。(P. 305)
巨額の負債のご返済、誠にお疲れさまでした。
わたしは当コラム前半で『力道山未亡人』をノンフィクションと表現しましたが、田中敬子氏なる優れた人物の「一代記」と見なすのがより適切みたいです。
金原俊輔