最近読んだ本713:『宮部みゆきのおすすめ本 2020-2024 in 本よみうり堂』、宮部みゆき 著、中公新書ラクレ、2025年
かつて宮部氏(1960年生まれ)が上梓なさった、
『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本 2015-2019』、宮部みゆき 著、中公新書ラクレ、2023年 「最近読んだ本619」
同作が非常におもしろかったので、今回の第二弾も購入しました。
没頭できる内容です。
全部で154冊の本が批評されており、それぞれが書中であつかっていた話題は、たとえば、
○「ボールペンの試し書きみたいなぐるぐるの線が、サザビーズの美術品オークションで約87億円で落札(P. 84)」
○「自分がこういう珍しい病気にかかったら、正しく診断してもらえるだろうかと取り越し苦労をしてしまう(P. 107)」ような奇病
○「『博士崩れ』と陰口をたたかれる、30歳で大学を辞めて道警に入った(P. 130)」女性刑事
○「ともすると、旧来の『探偵小説』のイデオロギー的な敵だ(P. 177)」と見なされていた松本清張(1909~1992)が、実は所持していた「『推理小説』への生真面目な情熱(P. 177)」
○「本書は映画のパロディだ。(中略)一瞥(いちべつ)で吹き出してしまう『ウエストサイド素通り』に『羊たちの親睦』、『猿の学生』『椿さん十浪』『男たちのバンカー』(P. 182)」
○「歴史上の『働く女性』としての(中略)奥女中を対象に、御家を内側から支えたその実像を明らかにしてゆく(P. 210)」
○「女王卑弥呼は大国・魏への返書を『何に』記したのか(P. 255)」
○「世界の森林を『そこに生きる動物や植物を単なるビジネスとしか見ない』人々から守るプロジェクトとして(P. 290)」作られた絵本
○「『国破れて山河あり』という一節だ。(中略)『敗』ではなく『破』なので、敗戦ではなく『秩序が乱されてめちゃくちゃになる』という意味だという(P. 300)」
……宮部氏の読書範囲の驚くべき広さ。
ただし、(けっして『宮部みゆきのおすすめ本』の短所ではないのですが)わたしにとって身近な心理学関係の読物がほとんど出てこなかった点に、すこし物足りなさがのこりました。
唯一、
『大人も知らない? ふしぎ現象辞典』マイクロマガジン社(P. 117)
この本の紹介の途次、「イヤーワーム」が語られています。
「音楽のある部分だけが頭の中でぐるぐる再生されて止まらない」現象は「イヤーワーム」というのだとわかって、私は胸がすっとした。次からは、「今イヤーワームになってて」と簡単に説明することができる。(P. 117)
宮部氏はイヤーワームでいらっしゃる模様。
当方もイヤーワームですので、氏に対し親しみをおぼえました。
それはそうと、宮部氏は「拙作に触れていただいているので書評できません(P. 318)」という書評哲学を有されている由です。
奥ゆかしい。
既述「拙作に触れて~」の文章で、わたしは同様の奥ゆかしさをおもちだったエッセイストを想起しました。「最近読んだ本710」
いっぽう、そんなゆかしさなど薬にしたくもないかたとておられます。「最近読んだ本612」
金原俊輔

