『中国人の「財布の中身」:誰も知らない中国人の本当の経済力』、青樹明子著、詩想社新書、2016年。

中国人観光客のかたがたによる「爆買い」は、日本のみならず世界各国でも話題になっています。
これを目にして「爆買いできるということは中国が豊かになった証拠」と受けとめる人が少なくありません。

いっぽう、世界第2位を誇る中国のGDP(国内総生産)は「数字の正確さに問題があるのではないか、第2位に至っていないのではないか」と疑われており、また、「中国の国内では依然として深刻な貧富の格差が存在している」旨の意見を述べる識者もおられます。

非常に興味をかきたてられる国です。

著者は長らく中国に居住され、日本に関する情報発信のお仕事をなさっています。

本書ではご自身が見聞した「等身大の中国」を紹介してくださいました。
タイトルどおり、まずは経済的な側面のご紹介です。
それに加え「中国人気質」「中国人の生活の知恵」などの話題も盛り込まれています。

うち、わたしにとって新しかった情報のひとつ。

中国における、レストランで注文した料理の残りを自宅へ持ち帰る「テイクアウト」が、同国で勤務していた日本人外交官のふるまいに端を発しているという件です。

約30年前、その外交官はお子さまを学校へ迎えに行った際、子どもの昼食の食べ残しを見て「もったいない」と、ご自分で食されたそうです。

当時、世界第2位の経済大国である日本、なかでもエリートである外交官のこの行動は大きな話題を呼ぶことになった。広東省の新聞で、「残り飯を食べた『領事パパ』から考える」という記事が掲載され、人々に食べ物を節約するよう呼びかけたのである。その後、広州の街中では、「節約は美徳である」「残飯は持ち帰ろう」などのスローガンが出されるようになり、食事を節約する運動が湧き起こり、中国のほかの地域にまで広がった。中国全土で常識となっているテイクアウトは、ひとりの日本人が先導したのである。(pp.140)

中国人の生真面目な一面が現われたエピソードです。

こういう情報もありました。

中国人は細かいお金にも執着する「ケチ」な人々かと思ってしまうが、そうではない。割り勘のところでも述べたように、金離れのいい人が多い。特に、北京などのいわゆる「北方」の人々は、「大方(ダアファン)」といって、気前がよく、けちけちしないといった特性を持つ。これは金持ちだけではない。一般の庶民も同じである。(pp.161)

そして青樹氏は、タクシーや市場で小銭がないときに負けてもらった体験を振り返っています。

わたしは『中国人の「財布の中身」』を読了し、かならずしも安定しているとはいえない中国経済の渦中で人々が懸命に知恵を絞り、自身の人生を発展させようと努力している様が目に浮かんできて、とても共感をおぼえました。

著者の情報のおかげです。

ところで、今回の読書をきっかけに、わたしは自分に起こったあるできごとを思いだしました。

わたしが所属する長崎ウエスレヤン大学にはたくさんの中国人留学生が在籍しています。

むかし、ひとりの中国人学生が研究室に来て、勉強の仕方について質問してきました。
わたしはできる範囲でアドバイスしました。
そして話が終わったのち、学生はわたしを学生食堂に誘い、なんとアドバイスのお礼に昼食をおごってくれようとしたのです。
驚いて辞退しましたが、お心づかいに感心しました。

その人物は母国に戻り、大学教授になっているそうです。
ご活躍をお慶びします。

現在の中国政府と日本政府は、解決が不可能そうな、あまりに複雑な政治的問題をかかえています。

しかし、上掲書の著者は、中国人について、

彼らは基本、日本製品が大好きで、温泉と日本食と富士山の大ファンである。(pp.11)

と、お書きになっています。

わたしは、中国の若者が多く学ぶ大学で働いている教員として、このご指摘を実感します。

さらに、中国と歴史的な関わりが深い土地である長崎市生まれの身には、逆の観点からもご指摘がよくわかります。
われわれ長崎人は中国を敬愛しているのです。

国家同士の状況はさておき、中国と日本の民間人同士はずっと仲良くありたい、と念願しています。

金原俊輔