『炎と怒り:トランプ政権の内幕』、マイケル・ウォルフ著、早川書房、2018年。

ドナルド・トランプ大統領がおこなった外交のうち、わたしが最も支持しないものは、2017年12月にエルサレム市をイスラエルの首都と認定した件です。

今後、中東で容易ならざる混迷が生じ、多数の人命が失われてしまうのではないでしょうか。

心配です。

この第45代アメリカ合衆国大統領、当初から世界のだれもが「変な男だ」と思っていたわけですが、上掲書の内容がすべて真実であるならば「変」という言葉を軽く凌駕するぐらいのでたらめさでした。

最悪の人柄らしいです。

彼がこうした人物でありながらも、大統領に選ばれる前、なぜビジネスマンとして大成できたのか、不思議になりました(実のところ、そう成功してはいなかったのかもしれません)。

以下、『炎と怒り』より、彼の人となりを物語る文章を引用しましょう。

トランプを相手に本物の会話は成立しない。つまり情報を共有するという意味での会話はできないし、バランスよく言葉のキャッチボールをすることもできない。相手の言うことを熱心に聞くことはないし、相手に返した言葉の意味を深く考えてみることもない(だから彼は同じ話を何度も繰り返す)。最低限の、あるいは確かな礼儀をもって相手を遇することもない。自分が相手に何かを求める場合には、意識を集中させて相手の言葉にじっくりと耳を傾けるが、相手が彼に何かを求める場合は、堪(こら)えがきかずにすぐに興味を失ってしまう。(中略)ある意味、本能のままに生き、甘やかされて育ったスター俳優のようなところがある。(pp.126)。

トランプは何かを読むということがなかった。それどころか、ざっと目を通しさえしない。印刷物の形で示された情報は、存在しないも同然だった。(pp.194)

トランプは、本当は臆病者だった。(pp.245)

バノンは、ドナルド・トランプの残酷さに苦しめられた。トランプは普段から無慈悲だったが、敵対している相手には鼻持ちならないほどの残酷さを発揮した。(pp.281)

トランプはトランプであり、軽率で、気まぐれで、不誠実で、何をもってしてもコントロール不能だ。(pp.354)

元FBI長官ジェームズ・コミー氏の証言もつけ加えておきます。

コミーが描き出すトランプ像はうさん臭く、軽はずみで迂闊(うかつ)、おまけに規則には無頓着で欺瞞的、自分本位な人間だった。(pp.385)

さらに別のページには、著者の「まるで原始人だ(pp.339)」という酷評が記されていました。

きわめつけは「トランプはフランケンシュタインのような生き物かもしれない(pp.355)」。

いずれにしても、トランプ大統領はどうにもこうにも度しがたい政治家のようです。

トランプ氏だけがひどいのではなく、彼を取りまいている、イヴァンカ・トランプ氏、ジャレッド・クシュナー氏、スティーヴ・バノン氏、ドナルド・トランプ・ジュニア氏、といった面々も相当「問題あり」の模様。

どなたもが、愚か、どん欲、傲慢、そして腹黒、こんな風に描かれていました。

ただし、トランプ大統領はもともと「悪役キャラ」なので、ここでどれほどマイナスなエピソードを書かれても、意外性が乏しく、おそらくたいして支持率には影響しないだろうという強みがあります。

「善玉キャラ」のオバマ前大統領だったら、「実はスモーカーで、あるとき、吸ったタバコを道にポイ捨てした」程度のゴシップ記事で打撃を受けたでしょう(架空の話です)。

トランプ氏はあんがいご自分の悪評に守られているのかもしれません。

『炎と怒り』には、(1)ほとんどの登場人物の年齢・性別・人種が説明されていないため、人間像をイメージしづらい、(2)奥様であるメラニア・トランプ氏に関する情報が不十分、(3)トランプ政権と北朝鮮とのやりとりを踏み込んで分析していない、などの難がありました。

それでも、とてもおもしろい読物でした。

さすがは話題の書です。

さて、わたしがまさにこの本を読んでいた最中、トランプ大統領はティラーソン国務長官を解任しました。

ティラーソン氏は政権内において比較的まともなほうだったのに……。

バノン側は、ティラーソン辞任後にCIAのマイク・ポンペオを国務長官に推す動きに出た。季節外れの蒸し暑い10月の朝、バノンがブライトバートのテラスハウスの前で考えていたのは、そんなことだった。(pp.479)

おどろくべきことに(経緯はすこし異なるものの)引用どおりポンペオ氏がティラーソン氏のつぎの国務長官に指名されました。

本書は将来を予言する力も有しているみたいです。

著者によると、トランプ大統領に解雇されたスティーヴ・バノン氏は、現在、次期大統領選に出馬する準備をしている由。

共和党からの立候補となるはずで、トランプ氏も再選をめざして立候補するようですから、共和党の予備選挙は元・同陣営の対決となり、目がはなせません。

そのうえ、もし民主党側がキャロライン・ケネディ氏を擁立して対抗した場合、ますます世界の耳目を集める事態となるでしょう。

2020年が楽しみです。

最後に、わたしが最も支持するトランプ外交は、2018年3月、彼が「台湾旅行法案」に署名したことです。

超支持!

これまた東アジアに緊張が走る成り行きは必至ですが……。

金原俊輔