最近読んだ本555:『引き裂かれるアメリカ:銃、中絶、選挙、政教分離、最高裁の暴走』、町山智浩、BS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るTV」制作チーム 著、SB新書、2022年

テレビ番組での町山氏(1962年生まれ)の発言を整理し、新書にした読物。

ご発言は、おもに藤谷文子氏(1979年生まれ)を相方に、展開なさっています。

わたしは当初、藤谷氏がどなたなのか分らなかったのですが、やがて「ハリウッド俳優で合気道家のスティーヴン・セガール氏のお嬢さん、邦画『ガメラ』に出ていた人」と気づきました。

アメリカ在住でいらっしゃる由です。

藤谷氏は「『一を聞いて十を知る』素晴らしい受け答え(pp.4)」をお示しになり、本書の読みやすさに貢献されました。

ただし、書中、男性(町山氏)を立て、ご自分は一歩後ろに下がる、といった古風な役割を演じていらっしゃった印象がのこります。

時折、たとえば第10章「白人至上主義者は臆病者?」における、

藤谷  人種を理由にした差別って(中略)結局のところは自分の努力なしに相手を批判できる一番簡単な方法じゃないですか?(pp.220)

のような、頭脳明晰と窺えるキレの良い「受け答え」で、約(つづま)やかに会話をリードなさいました。

さて、これまでわたしが目をとおしてきた町山氏の著作は、

「最近読んだ本7」

「最近読んだ本27」

「最近読んだ本58」

「最近読んだ本152」

「最近読んだ本387」

「最近読んだ本476」

6冊です。

以上に比べると、今回の『引き裂かれるアメリカ』では、かつて見られた軽妙さが影を潜め、堅さ、しかつめらしさ、が前面にあらわれていました。

重いテーマが原因なのかもしれません。

それとも執筆にテレビの制作チームが加わった関係?

本書のテーマは、アメリカ合衆国で顕著になっている「分断(pp.3)」です。

人種間の分断、富裕層と貧困層のあいだの分断、教育格差を原因とする分断、支持政党が異なるゆえの分断、人工中絶の権利を認めるかどうかで始まった分断、銃規制強化推進への賛否にまつわる分断、アメリカがこれまでいいとこ取りをしてきた結果、中米諸国にシワ寄せが生じて起こった分断、等々と、すごく輻輳(ふくそう)的な分断でした。

アメリカは混迷の波に覆われているようです。

わたしが住んでいたころは、そこそこ、国家としての統一感があり、民心の合致もあったのに。

当時「日本VSアメリカ」の貿易摩擦が熾烈(しれつ)だった反面、

町山  アジア人に対する暴力は、アメリカ各地で起こっています。サンフランシスコでは、2021年1月28日、84歳のタイ人の男性が暴漢に押し倒されて死亡しました。(pp.264)

こんな危険など、ほぼ皆無でした(犯罪に巻き込まれる危険性は高かったのですが、日本人もしくはアジア人のみ選択的に狙われるという状況は別段なく、たんに治安が悪かっただけです)。

ちなみに、引用に出てくるサンフランシスコは、わたしが暮らしていた街。

大学院のクラスメートたちは、いま、なにを考え、どのような日々をおくっているのでしょう。

『引き裂かれる~』や他の書籍で同国の現状を知れば知るほど、心配になってきます……。

ところで、

町山  アメリカ合衆国における「愛国」とは、政府を支持することではないからです。国民こそがアメリカであって、政府は仕事としてサービスを請け負っているだけだと考える。政府が我々国民に対して圧政を加えるなら、我々はそれを倒す権利がある、と。

藤谷  面白い。それは非常にアメリカ的ですね。

町山  そうですよね。日本人みたいに「国に尽くします」という発想ではありません。(pp.42)

ユニークなご意見ながら、果たしてそうでしょうか?

アメリカには(おそらく)ほとんどの国と同様「国に尽くす」という表現がありますし、あるどころではなく、国民たちは大事な言い回しとして結構頻繁に用いています。

いまも極度に変わってはいないでしょう。

したがって、引用文で指摘されていた件は、そう諸国や日本と大差がないように思われるのです。

正確には記憶していないものの、第二次世界大戦中どこかの地で米軍と日本軍が対峙していた際、ある日本兵が進み出て、米軍に向かい「ルーズベルトなんか、くそくらえ!」と叫んだら、ひとりの米兵が喜色満面で姿をあらわし「お前は共和党支持者なのか、俺もなんだ!」(フランクリン・ルーズベルトは民主党から出た大統領)こう言って握手をもとめてきた、なるジョーク。

このジョークを連想させられるご指摘ではありました。

金原俊輔