『カネとスパイとジャッキー・チェン:分断される民主化運動と中国の行く末』、陳破空著、ビジネス社、2018年。

中華人民共和国が有する多種多様な問題を論じた書です。

読みやすい内容でした。

こうしたたぐいの本は、とりわけ日本人が書いた本である場合は、明日にも中国共産党政権が崩壊するかのような予想が述べられていて、ややもすれば扇情的になりがちです。

いっぽう、陳氏(1963年生まれ)による一連の作品は、おおむね冷静であり、正確さへの志向も見られるので、わたしは評価しています。

彼は中国からアメリカ合衆国へ亡命した人物。

現在、しばしばアメリカのテレビ番組やラジオ番組に招かれ、中国情勢について解説なさっているそうです。

さて上掲書、やはりどうしても気になるのがタイトル内の「ジャッキー・チェン」という惹句(ジャッキーだけに)でしょう。

ジャッキー・チェン氏は、1954年、香港のお生まれ。

たくさんのカンフー映画に出演し世界的な大スターとなられました。

政治信条は「親・中国」であり「反・台湾独立」であるかたです。

親・中国派でいらっしゃるため、香港にたいする中国側の政策にも賛同しておられます。

著者は本書においてこの件を厳しく批判されました。

単に中国におもねっているだけでなく、心の底から、骨の髄まで、中華民族主義を受け入れてしまっているのだから。
こうして中国政府に協力した彼に対し、共産党は「見返り」として「マーケット」を与えた。ジャッキー・チェンは共産党のイメージキャラクターになり、さまざまな場所に顔を出しては、中国政府のイメージアップのために貢献している。(pp.117)

さらに、

日本人は香港の知人ができると、何かしら香港の話題を話そうと思って、「ジャッキー・チェンが大好きです」と言ってしまう。ところが、これに対し香港人は嫌な顔をする。そんなことが多いそうだ。それもそのはず、香港人の大半がジャッキー・チェンを嫌っているのだ。カネのために香港を売ったゴリゴリの中華民族主義者として……。(pp.118)

の由です。

ジャッキー・チェン氏の追及にとどまらず、書中では、

「旧態依然のまま終わった5年ぶりの党大会」

「中国の民主化運動はなぜ失敗を繰り返すのか?」

「武力で金融をコントロールするあり得ない経済政策」

といった、共産党政府を糾弾するもろもろの意見も語られました。

深刻な事案が山積している国です。

『カネとスパイと~』を読み終え、わたしは改めて独裁政権下の社会に生きる人々の苦悩を慮(おもんぱか)りました。

中国は、自国民だけではなく、周辺諸国にも圧迫を加えだしています。

こうした隣国の動きを受け、昨今、日本政府のみならず市井の日本人たちもそうとう警戒感をもちだしている状況。

ただ、おそらく、ほとんどの日本人は生身の中国人を知らないのではないでしょうか。

中国人と聞けば「ドン・キホーテ」「ココカラファイン」などで買い物をしている団体旅行者らの姿(とくに大声での会話)を思い浮かべる程度と想像します。

けっして政府のありかたと国民ひとりひとりの人間性が一致するわけではないですから、たとえ中国政府に反感をおぼえていても、その点は留意しておかなければなりません。

わたしもまた中国という国家の動向を警戒する者ですが、観光や留学で来日している中国人のみなさまには、自身を含めた日本人たちが親切に接し、よい印象を抱いて離日していただきたいと願っています。

金原俊輔