『定年準備:人生後半戦の助走と実践』、楠木新著、中公新書、2018年。

楠木氏(1954年生まれ)は「定年」をテーマとした著書が多いかたです。

わたしはかつて、氏の、

『定年後:50歳からの生き方、終わり方』、中公新書、2017年

を読み、労作だったので、当コラム上にて肯定的な感想を書きました。

このたびの『定年準備』は、いわば『定年後』の続編のような内容です。

個々の具体例がふんだんに紹介されていました。

しかし、一般に、具体例の紹介は、登場人物たちと似た境遇に置かれている読者以外にはあまり役立たない、という欠点を有します。

残念ですが『定年準備』においても、いささかそうした欠点が見受けられました。

おそらく「ひとりの著者がひとつのテーマで書きつづけ、しかも一定の完成度を保つ」というのは、そうとう困難なのでしょう。

楠木氏を責めているわけではありません。

責めるどころか、『定年準備』はやはり参考とすべき情報を含んだ本でした。

それではわたしの参考になった箇所を引用します。

まず、第3章「60歳からのハローワーク」のなかに挿入されている「身の丈に合った起業」の項。

著者はいくつかの実話を列記されたのち、

これらは、いずれも大きな借金や在庫を抱えるような起業ではない。中高年まで会社員を続けていて、いきなり大きな事業を始めることは難しいだろうし、リスクも大きい。個人事業主やフリーランスとして一人で仕事を始めるなど身の丈に合った起業の方がフィットするというのが実感だ。(pp.93)

むやみに発破をかけず穏当なアドバイスをなさいました。

つづいて、第7章「逆境がチャンスに」内の「若い時は組織にどっぷり」項です。

組織で働くビジネスパーソンは、入社して10年余りは会社での仕事に没頭することが大事ではないだろうか。もちろん会社にしがみつくという意味ではなく、自己の成長の土台づくりのために仕事とどっぷり格闘するのだ。(中略)
若い時は仕事中心で過ごして、中高年になって関心のあることや自分に向いていることへ思い切って舵を切るというのが、仕事人生を乗り切るための一つの形ではないかと考えている。(pp.214)

なるほど……。

大賛成というほどではないものの、たぶん一面の真理ではあるでしょう。

最後となります。

楠木氏は「エピローグ:定年準備のための行動六か条」の「第二条 趣味の範囲にとどめない」において、

退職後は、自分だけの趣味の範囲にとどめないで、わずかでもお金をもらえることを考えることだ。もちろん「お金儲(もう)けを目的にせよ」と言っているのではない。
たとえば老人ホームで得意の楽器を演奏して入居者に喜んでもらうのは素晴らしいことだ。その時にたとえ交通費や寸志であっても報酬があるということは、誰かの役に立っているということである。その瞬間に、単なる趣味ではなくて社会的なつながりを持つ活動になる。(pp.237)

こうしたお考えを示されました。

わたしは同意します(お金になるレベルの趣味をもっている勤労者は少ないでしょうが)。

引用は以上です。

本書を読みながら、定年という、当事者たちにとって緊要な問題に真正面から取り組んでおられる著者のご姿勢は尊敬に値し、世間のニーズにも応えていらっしゃる、と思いました。

金原俊輔