『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』、細川昌彦著、光文社新書、2018年。

落ち着きを欠いたタイトルだったため、あまり気乗りしないままに、この本のページを開きました。

開いて良かったです。

わたしが近ごろ読んだ国際情勢解説書のうち、最も多角的・深層的な視点を有し、周到に整理した議論を重ねている、読者説伏の力が強い一冊でした。

細川氏(1955年生まれ)は、元・経済産業省の官僚にして、元・日本貿易振興機構ニューヨーク・センター所長。

通商外交を熟知された人物による書き下ろしというわけです。

さて、2018年の年末現在、世界の耳目を集めている「米中貿易戦争」は沈静する気配を見せず、それどころかますます悪化の様相を呈しています。

上記件について、まず、著者はアメリカ合衆国の現況を解説されました。

大事なポイントは「米国」という主語で一括りにすると、本質が見えなくなるということだ。トランプ大統領と「トランプ大統領以外の米国」を分けて考えるべきである。トランプ大統領以外とは、議会、情報機関、政権内の強硬派、シンクタンクなどの政策コミュニティという「オール・アメリカ」を指している。(pp.157)

つまり、トランプ大統領の種々のおこないは、アメリカ全体からひとりだけ乖離している、とのことです。

ニュースを通して大統領の言動そして言動に反発する米国民の様子を見ていると、頷ける説明といえます。

ところが、中華人民共和国に対する懸念のみは乖離しておらず、いまのアメリカにおいて、

議会をはじめとする対中警戒感は根深く、ワシントン全体の空気を覆っている。
今のワシントンでは、こうしたテーマでのセミナーやシンポジウムばかりだ。もうトランプ大統領がコントロールできる域を越えた「オール・アメリカ」の動きになっているのだ。(中略)
貿易赤字問題を背景とする貿易戦争はトランプ大統領による「旋律」で、後に詳しく述べる根深い対中警戒感を背景とする経済冷戦は「通奏低音」だ。(pp.158)

中国を警戒する通奏低音のような雰囲気があり、それに乗っかってトランプ大統領の旋律(強硬な対中国政策)がある、要するに、中国が相手の場合にかぎってアメリカは一枚岩になっている、という解題でした。

であるのならば、米中貿易戦争が早期に収束する可能性は低いでしょう。

別の大統領に代わったのちも継続してゆくのではないかと考えられます。

勉強になりました。

つぎに、わたしは米中貿易戦争と同じくらい「TPP11」にも関心をもっています。

アメリカが「TPP」を正式に離脱して以降、関係諸国のなかでは日本が最大の経済力を所持する国となり(なってしまい)、わが国はどうふるまうのか、成りゆきを注視していました。

そして、2017年11月、ついに参加国すべての大筋合意という結末にいたりました。

2018年12月30日の発効が予定されています。

これは「もしや日本が経済大国としてリーダーシップを発揮した成果ではないか」と期待まじりの想像をしていたところ、『暴走トランプと独裁の~』書中、当該想像を裏づける詳しい描写が提出されました。

TPP交渉においても、強圧的な要求を繰り返す米国とそれに反発する途上国の間を仲介したのも日本であったことは、既に述べたとおりである。
そしてTPP11の交渉においては、大国である米国不在で主役にならざるを得ない日本が自国の利害と無関係な案件でも調整に奔走する姿を、各国は高く評価していた。しかもそれが純粋に「善意」であることが大事なのだ。(pp.91)

日本人として誇らしさをおぼえないではいられない一節です。

しかも、

米国も中国も、日本がそこまでやれるとは、正直思ってもいなかった。そして今や、この成果は国際的に驚きの目で見られている。国際社会の日本に対する評価を大きく変えたのだ。(pp.69)

とのこと。

嬉しくなりました。

TPP11によってどんな経済的得失が生じるかを予想する専門知識はありませんが、日本の努力で推進してきた協定ですから、わたしはぜひTPP11が大きな国益・共益を産んでほしい、と願っています。

金原俊輔