『FEAR 恐怖の男:トランプ政権の真実』、ボブ・ウッドワード著、日本経済新聞出版社、2018年。

ボブ・ウッドワード氏(1943年生まれ)。

アメリカ合衆国のジャーナリストです。

カール・バーンスタイン氏との共著、

『大統領の陰謀:ニクソンを追いつめた300日』、立風書房(1974年)

は、世界的なベストセラーになりました。

今回の作品も「政権内幕もの」で、ドナルド・トランプ大統領と彼を取り巻く高官たちとの対立・葛藤がつぶさに描かれています。

トランプ氏は合衆国大統領の職務を遂行するにあたり、

(1)周囲の進言に耳を貸さず、公文書にも目を通さず、なんでも自分の思いつきを優先させて決定

(2)人々と親密な関係を構築することなく、気にいらない人物はすぐさま解雇

(3)部下を口汚くののしる、馬鹿にする

(4)ウソをつく、騙(だま)す

(5)支離滅裂

こうした性情を隠そうともしていない模様です。

最も国家元首になるべきではない人間像でしょう。

アメリカが今後どう進みゆくのか、不安をおぼえる読物でした。

ある日、閣僚たちと大統領が激論したあと、閣僚のひとり、ティラーソン国務長官は退任を希(こいねが)うようになり、

プリーバスに会いにいった。「大統領が将軍たちについていうときの口ぶりが気に入らない。あんなふうにいわれる筋合いはない。大統領の話をじっと聞いているのに耐えられない。あの男は知能が低い」(pp.326)

と発言した由。

こういうくだりに接すると、トランプ氏はもしかしたら「境界知能」ではないか……、左記のように疑ってしまいます。

境界知能というのは、同世代の知能指数の平均を(病的ではない程度に)下回っている状態を指す言葉です。

さて本書では、北朝鮮、イラン、アフガニスタン、との外交が叙述されました。

いわゆる「ロシア疑惑」、トランプ氏と中国の習近平国家主席との間柄、韓国への圧力、などについても、かなり詳細に語られています。

そのうちのエピソードのひとつ。

トランプ大統領が「ツイッター」を愛用している事実は広く知られていますが、2018年初頭、アメリカと北朝鮮のあいだの緊張が高まっていたころ、

公にはされなかったが、ホワイトハウス内部では、在韓米軍の帯同家族-将兵2万8500人の家族数万人-の避難命令をツイッターで伝えることを、トランプが提案していた。
帯同家族を韓国から避難させれば、アメリカが真剣に戦争準備を開始しているというシグナルを、北朝鮮に伝えることになる。(中略)
いわば最後通牒のようなものだった。それがツイートされる可能性があると知った国防総省上層部-マティスとダンフォード-は、肝を潰した。(pp.423)

さいわい関係者たちがツイッターへの投稿を押しとどめたそうです。

危なっかしいトップです。

以上、『恐怖の男』を読了したのち、わたしが不思議に感じたのは、日本がほとんど登場しなかったことです。

安倍首相にいたっては、まったく触れられていません。

書くべき情報が多量すぎるのでやむを得なかっただろうと思う半面、日本人読者としては少々もの足りない気もちになりました。

金原俊輔