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『「中国製造2025」の衝撃』、遠藤誉著、PHP、2019年。

「中国製造2025」とは中華人民共和国が2015年に発表した国家戦略の総称で、

2025年までにハイテク製品のキー・パーツ(コアとなる構成部品、主として半導体)の70%を「メイド・イン・チャイナ」にして自給自足すると宣言した。同時に有人宇宙飛行や月面探査プロジェクトなどを推進し、完成に近づけることも盛り込まれている。(pp.1)

という内容です。

ある国がなんらかの国家戦略を策定し、その目標に向かって邁進すること自体は、まったく問題ないはず。

日本だって、かつては「富国強兵」だの「脱亜入欧」だのを、旗印にしていました。

しかし、中国の国家戦略が功を奏してアメリカの国力を上まわった場合、世界がどうなってしまうのか、大きな不安を感じます。

なぜならば、それは地球上のすべての国々がかの国の支配下に入ってしまうことを意味するわけですので。

『「中国製造2025」の衝撃』は、以上の問題意識のもと、中国を中心にして昨今の国際情勢を語ったレポートでした。

啓発の書です。

いくつかの文章を引用し、現在、中国が有している実力を概観しましょう。

半導体生産において、世界のトップ10に中国のメーカーが2社も入るというのは、恐るべきことだろう。「2025」は完遂するかもしれないのである。(pp.86)

ちなみに日本の会社は1社も「トップ10」入りしていませんでした。

西安市にある軍医大学は、

いたるところ、バイオ関係の研究所で埋め尽くされている。当然、附属病院とも連携しており、大がかりなバイオ研究が推進されていることを知った。(中略)
もちろんクローン牛もいる。ちょうどこのとき、西北農林科技大学がヒトES細胞を使って、脈動しているクローン心臓作製に成功したというニュースが入っていた。(pp.148)

この種の学問領域はいっそう進捗し、おそらく早晩、世界最先端になる、と考えられます。

なぜならば、人倫的な配慮を軽視しつつ研究をおこなえるという強みが(恐ろしさが)同国にはあるからです。

事実、遠藤氏(1941年生まれ)は、ご自身が取材の際に目撃したゾッとするような光景をお書きになっていました。

中国は2020年までに重さ66トンの天宮3号の建設に着手し、2022年までに建設を終える計画を立てている。つまり、2022年までに本格的に宇宙ステーションを稼動させ、現在の国際宇宙ステーションの次の世代を、中国が宇宙で担うという計画を立てている。(pp.217)

いまのところ国際宇宙ステーションは日米が主導しているそうです。

やがては宇宙のリーダーが交代してしまうのかもしれません。

引用を終了します。

こうして見てみると、トランプ大統領が中国を強く意識し「貿易戦争」を仕掛けた理由がよく分ります。

当該戦争は世界経済を混乱させるだろうとは思いますが、がんばってほしいです。

日本はどうすればよいのか。

著者はとくに確たるご提案を述べてはいないものの、中国と距離を置き、アメリカとますます協力し合うべきことを、うっすら匂わせていらっしゃいました。

わたしも賛成いたします。

金原俊輔

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