『カルト資本主義 増補版』、斎藤貴男著、ちくま文庫、2019年。

わたしはむかし、宴席で隣り合わせた初対面のかたから「万能微生物EM」に関する熱弁をお聞きしたことがあります。

その後、いつしか忘れていたのですが、上掲書において話題のひとつとして登場してきました。

否定的に語られています。

「EMに関わらなくて良かった……」と思いました。

『カルト資本主義』は、わが国の名だたる企業のなかにカルトやオカルトが入りこんでしまっている実態を糾弾した本です。

「入りこんでしまっている」というより「根幹になってしまっている」と表現するほうが、もっと正確かもしれません。

わたしはカルトだのオカルトだのと無関係に生きているし、『論語』で示された「怪力乱神を語らず」のありかたを信奉しています。

そんなわたしにはゲッソリくる内容の本でした。

また、ページを繰りつつ「上司の意向に合わせて不本意ながら信じるふりをしたり活動に関わったりしている社員たちが多数いるのだろう」と、深く同情もしました。

それではどのような話が紹介されていたか。

第5章「オカルトビジネスのドン『船井幸雄』」より、一部を引用してみます。

著者の斎藤氏(1958年生まれ)が、取材で、ある講演会に参加された際、

足立は、ロマンスグレーの枯れた雰囲気を漂わせつつ、こんな話を始めた。
「宇宙からの情報によりますと、すべての存在物の本質は、意思であり愛である陽子と、意識であり調和である中性子から成る、原子核の集合体なのです。宇宙の言葉でエクサピーコといい、このへんを(頭の周りを指して)回転しています。(中略)
今、多くのエクサピーコが核分裂して上空に浮遊し、地球にマイナスのエネルギーを発信しています。地球は周りの星のエクサピーコのサポートを借りてマイナスをプラスに転換し、レベル4に戻ろうとする。(中略)
その時期が迫っているという情報が、宇宙から私に入っているんですね。ところが、エヴァの世界に同調できない人は一緒にテレポートできない。消えてしまう、と。すでに始まっているこのエネルギー変換の波動で、大地震も起きたんです……」
阪神・淡路大震災の被害者たちは、つくづく浮かばれない。自分を「チャネラー」(宇宙人からのメッセージを受け取れるという人)だと思い込んだ、こんな人にまで、こんな言われ方をされてしまって……。
私の思いとは反対に、場内は歓喜の声と拍手の嵐に包まれた。と、再び船井が登場して、にこやかに引き取った。
「足立さんの話は、プレアデス人、カシオペア人、あと惑星連合や銀河連合といったところからの情報なんですね。(後略)」(pp.268)

カルト・オカルトの供給側はこういう感じでした。

受給する側は、

「私と塾長の考えが一致したからです。ユングの言うシンクロニシティ(共時性)でした。あの方程式は真理ですもの。私は生まれる前から、稲盛塾長に出会うように運命づけられていたんです。宇宙の法則って凄いのね。(後略)」(pp.171)

こんな人たち。

両側ともに、つける薬はない模様です。

彼ら・彼女らを落ち着かせ、まともな自然科学に目を向けさせようとするのは、ほとんど不可能でしょう。

どれほど不可能であるかについては、アメリカの社会心理学者がおこなった研究、

L・フェスティンガー、S・シャクター、H・W・リーケン著『予言がはずれるとき:この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』、勁草書房(1995年)

に報告されています。

以下、わたしが『カルト資本主義』を読みながら考えたことを、3点記します。

まず、本書に出てきた、宇宙からの情報、EM、永久機関、気を入れた水、こうした事物に飛びつき信じている人々は、科学をきちんと学ぶ頭脳や根気が乏しいのだろう、と想像しました。

科学を習得するのは難しく、時間もかかります。

それに耐えきれない人たちが上述のごときものを取り入れる。

そうすると何でも説明がつく(ような気になる)ので、おそらくご本人にとって楽なんでしょう。

つぎに、他者からカルト・オカルトと指摘される事柄を信じている諸子は、いちど、カルトやオカルトを題材にした歴史ノンフィクションを読んでみてほしい、と願いました。

不老不死、錬金術、千里眼、血液型性格判断……、これらがどうやって発生し、どう否定されていったか、くわしい経緯を知ったら、現在のご自分の偏り・誤りに気づくことができるかもしれないからです。

もっとも、既出フェスティンガーらによれば、読む必要がある面々こそ絶対に読もうとはしないはずですが。

3番目になります。

『カルト資本主義』においては、怪しげな登場人物にかぎって精神医学者カール・グスタフ・ユング(1875~1961)が提唱した概念を、好んで用いていました。

わたしの場合、ユングを「たんなるオカルト師」としか見なしておらず、おなじ偏りを有する人たちとの相性は抜群であろうと想像され、意外でも何でもありません。

ちなみに、書中、複数にわたって使われたユングの概念は「シンクロニシティ(共時性)」でしたが、これはアメリカの心理学者エレン・ランガー(1947年生まれ)がおこなった実証実験「コントロールの錯覚」によって、とっくのむかしに墓場送りにされました。

だからわたしは「まともな科学が大事」と主張しているわけです。

金原俊輔