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『ルポ トランプ王国・2:ラストベルト再訪』、金成隆一著、岩波新書、2019年。

朝日新聞社の経済部記者としてアメリカ合衆国に滞在されている著者(1976年生まれ)が、ドナルド・トランプ現大統領を応援する地域へ赴き、有権者たちにインタビューをおこなった結果の報告書です。

向かわれたのはアメリカ東部および南部の、いわゆる「ラストベルト」でした。

ラストベルトは「さびついた工業地帯」を意味する言葉。

会った相手はほとんどが白人です。

インタビューをとおして、依然熱狂的なトランプ支持層が存在するいっぽう、落胆・不満がひろがりだし、2020年の大統領選挙ではトランプ以外の候補者への投票を検討しだしている人も少なくない、という傾向が紹介されました。

興味ぶかい情報です。

支持陣営の典型的な考えかたは、こうでした。

まず、主婦のエドナ。

「トランプに投票した人の少なくとも90%は今も支持していると思う。トランプは貿易交渉だけでなく、エネルギー産業の規制を緩和し、天然ガスの採掘がやっと本格化し、雇用も生まれている。いったい何年、待たされたことか! 私は迷うことなく100点満点をつける」(pp.91)

つぎに、ティムという男性弁護士は、

トランプ政権に99点をつけるという。
「株価は高く、失業率が低い。経済運営は素晴らしい。最高裁判事の任命も約束通りに実行している。対外政策も力強い。世界からより尊敬されています。確かに彼の交渉スタイルは異質ですが、中国は『アメリカ製品をもっと買う』と約束した。『米中貿易の不均衡をただす』と掲げた大統領の実績です。コリアンの指導者のラストネームはなんだったかな、そうそうキム何某(北朝鮮の朝鮮労働党委員長、金正恩)との直接会談も歴史的です。自国の子どもに化学兵器を使ったシリアに空爆もやりました。イスラエルの米大使館のエルサレム移転も決めました。やっていることに迷いがない。特に対外関係で、彼は一つもミスをしていない」(pp.222)

逆に、トランプを見限った側の意見。

整備士のパットという男性は、

「私のポケット(懐具合)は改善されていない。昔のような時給の高い仕事が戻ってきたか? トランプの約束は実現する気配もない。貿易交渉も独裁者のように振る舞っているだけで、いずれ(輸入品の)物価が上がり、しわ寄せは私たちに来る。残念ながらトランプは効果的な大統領じゃない。次回は投票しない」(pp.43)

熱心な共和党(トランプが所属する党)員だった看護師キャサリン。

「支持してもしなくても、大統領を支え、大統領職に敬意を払うことはアメリカ人としての責務だった。私の知る限り、アメリカでは常にそうだったのに、トランプにはそう思うことができない。トランプはいま世界の笑いものだ。堪えられない。成人しても、中学生がずっと自慢しているような男だ。他人のことも徹底的に中傷しないと気が済まない。中でもひどいのが、トランプ政権が国境沿いで越境した親子を引き離して、ばらばらに収容していること。絶対に受け入れられない。最悪です。トランプのように振る舞っても大丈夫だと思う人々が増えている気もします」(pp.129)

当然ながら大統領にたいし正反対の受けとめかたがあるわけです。

ところで、著者は飲食店だのバーだのにおいてインタビューをなさいました。

ペンシルベニア州の大型ピザ・レストランでのご経験なのですが、

駐車場から客の出入りを見ていると、子連れの家族が多い。12月26日午後。クリスマスを過ぎたとはいえ、アメリカでは休暇ムードが続いていた。
やめた。客のほぼ100%が白人のファミリー向けの店で、見慣れないアジア系の男1人が突然やってきたって相手にされるわけがない、と思った。(pp.57)

率直にお書きになっています。

長らくアメリカに住んでいた身には、よくわかるお気もちです。

ただし、わたしの居住先だったカリフォルニア州サンフランシスコ市では、おなじく客が白人だらけというお店はありはしたものの、アジア人が入りにくいムードまでは漂っていませんでした。

最後になります。

それでは本書が提供してくれた情報が、いまのアメリカ国民の見解を知るうえで、またはトランプ氏再選の有無を予想するうえで、どれくらい役立つかというと、ほとんど役に立ちません。

なぜならば、著者が(社会科学的には)「有意抽出法」と呼ばれる方法にて対象者と知り合い、インタビューをなさったからであり、この非科学的な方法では「真理に到達できない」と見なされるのです。

意識調査あるいは正確な投票行動予想をするためには「無作為抽出法」こそが望ましい。

学問上の通念です。

したがって『ルポ トランプ王国・2』は、読物として楽しめればそれでOK、こうしたタイプの書籍と考えるべきでしょう。

金原俊輔

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