最近読んだ本343

『世界史を動かしたフェイクニュース』、宮崎正勝著、KAWADE夢文庫、2020年。

世界各国で発生し、自国と周辺に影響をおよぼした、有名かつ深刻な「フェイクニュース」に関する本です。

古代から現代にいたるまでのさまざまな例が網羅されました。

著者(1942年生まれ)は、高等学校それに大学で教鞭をとられ、最近は歴史書執筆に専念されているかたです。

非常に博識でいらっしゃいました。

知識が「日本史のみ」「東洋史のみ」「西洋史のみ」などと限定されていない点がすごいです。

『世界史を動かした~』のなかで興味深い話をつぎつぎに紹介してくださり、そのうち、われわれ日本人の生活に直結するものとして、以下があります。

中国の王莽(おうもう)なる人物は、紀元8年に新たな王朝「新」を創建したのち、塩・酒・鉄の専売制を断行しました。

酒飲みたちを安心させる言葉に「酒は百薬の長」があります。(中略)
この言葉は、王莽が、税収を増やすために作ったキャッチ・コピーです。
『漢書』「食貨志下」には、「夫(そ)れ塩は食肴(しょくこう)の将、酒は百薬の長、嘉会(かかい)の好、鉄は田農の本」とあります。つまり「塩、酒、鉄製農具を買いなさい」という宣伝がなされたのです。(pp.48)

税収は増えたでしょうけれども、アルコール依存症者だって増えたことでしょう。

当該キャッチ・コピーがいわゆるフェイクニュースなのかどうかは微妙なところですが、宣伝文句としては秀逸です。

なにしろ約2000年が過ぎても隣国の日本で普通に使われている言葉(というか、上戸たちの言い訳)なのですから。

平賀源内(1728~1780)発案「土用の丑の日」の背後エピソードにすこし似ています……。

第27章「トンキン湾事件という謀略と米軍による北爆の開始」。

1955年生まれの我が世代は「ベトナム戦争」のニュースと共に成長し成人してきたため、フェイクニュース云々はさておいて、この章にある種の感慨をおぼえざるを得ません。

わたしは「トンキン湾事件」自体は忘れてしまっていました。

いっぽう、同じ章内の、

イラク戦争のときのようにサダム・フセイン政権が大量殺戮(さつりく)兵器を大量に隠している確たる情報があるとして開戦したものの、実際にはそれが見つからないという杜撰(ずさん)な情報による作戦もありました。(pp.205)

こちらのほうは「現代史」の椿事として記憶に新しく、まさに典型的なフェイクニュース禍のひとつだったと考えます。

金原俊輔

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