最近読んだ本640:『ローマ帝国の誕生』、宮嵜麻子 著、講談社現代新書、2024年

テレビや映画などで古代ローマを取り扱う作品では、しばしば立派な鎧兜に身を固め、規律正しく前進する軍勢が現れる。(中略)
あるいは、目を見張るような豪華な都市ローマのありさまと、奢侈(しゃし)に耽り、堕落に溺れるローマ人の暮らしぶりが描かれる。その背後には、頭(こうべ)を垂れる哀れな属州の民や奴隷たちの姿がある。(pp.4)

わたしはまさしく古代ローマに関し引用文程度の理解しかもっておらず、そして、最後の文章の「奴隷たち」の存在でしたら知っていましたが、ローマに「属州の民」もいたという知識は有していませんでした。

『ローマ帝国の誕生』は「ローマの属州支配に対する先住民の抵抗(pp.360)」を論じた学術書で、古代ローマ史がご専門の宮嵜氏(1962年生まれ)が執筆なさったもの。

紀元前753年に約400メートル平方の街としてスタートしたローマが、じわじわ周囲を併呑、紀元前168年の時点で「覇権が世界( = 地中海沿岸一帯)を覆い(pp.218)」「たいへんな広がりの空間を支配下に収めた(pp.232)」帝国となる……、そこにいたるまでの紆余曲折が詳述されました。

この本、登場する地名・国名が分らず(例:サグントゥム)、人名も把握していない(例:セルウィリアヌス)わたしにしてみれば、楽な読書ではなかったです。

しっかり付いてゆけませんでした。

なんとか中身の一部を咀嚼し、抱いた感想は、

(1)ローマが勝利し属州としていった諸地域・国々は、どれもあまり強国ではなく(のちに覇を唱えたのはスペインぐらい)、21世紀の今も混乱が継続している落ち着かないところばかりで、当時のローマにとって組み伏しやすい相手だったのではないか?

(2)そういう地域や国を寄せ集めつづけたので、ローマは広くなり人口も増え、強大な国家として興隆したのではないか?

(3)もしイエス・キリストが現われなかったとしたら、ローマがヨーロッパ文化圏に遺した影響は比較的限定的だったのではないか?

……と、なります。

別の感想。

大スキピオの後任の将軍たちはどうやら法務官格の命令権を与えられていたようである。「執政官格」と同じく、法務官そのものではないが法務官と同等の命令権を保持することが認められた、という意味である。
ローマには執政官は毎年二人しかおらず、法務官はこの時点では二人であった。(pp.118)

監察官職は、ローマの政務官階梯のなかで執政官の上位に置かれていた。だが執政官やその下級の法務官とは違って、軍の命令権を備えていない。(pp.258)

書中、こんな記述がいくつもあって、2200年以上前、遠く離れたローマで特定の役職に付随していた権限を細かく紹介なさる宮嵜氏のお姿、おそらく権限の実態など日本に関係がなく、日本どころか現在のイタリアにもほぼ関係がないであろうにもかかわらず熱弁なさるお姿に、微笑を禁じ得ません。

これこそが学者の態度であり、わたしは元・学界の最底辺にいた者として、共感や懐かしさをおぼえました。

最後の感想です。

われわれ読者は、さすがに「カエサル(pp.290)」「アントニウス(pp.313)」「クレオパトラ(pp.315)」の3人を知っており、興味もありますから、この人物たちについてはもっと精細に語ってほしかったと思いました。

金原俊輔