最近読んだ本367

『変見自在 トランプ、ウソつかない』、高山正之著、新潮文庫、2020年。

高山氏(1942年生まれ)の言説は、偏りこそあるものの、お手もちの情報を駆使して対象を真っ向う幹竹割(からたけわ)りなさるため、読者の蒙を啓いてくれます。

ですので、氏の政治エッセイが出版された際は、大抵わたしは購入し、あれこれ学んできました。

今回の『トランプ、ウソつかない』を読み、初めて知った事柄は、三菱重工業「MRJ」の件。

かつてゼロ戦に代表される名戦闘機を開発した会社が、なぜ今さら小型機の製造に失敗しつづけているのか……、個人的に長らく疑問でした。

高山氏は『朝日新聞』が続発させる「欠陥記事(pp.145)」を批判するなかで、

MRJは米国に型式証明を取りに行く旅で2度も躓(つまず)いた。ために納入時期は7年も遅れた、困ったものだと社説は言う。
ただホントの原因を社説は隠す。MRJは空調でトラブった。実はそれが米国製だった。
米国はろくな品質管理もできていない癖にウチの部品を必ずたくさん使えと圧力をかける。(中略)
MRJのトラブルはその「バイ・アメリカン」による貰(もら)い故障だった。(pp.148)

そうでしたか。

いくら凡庸でも、当方の年齢(65歳)になれば、国際関係に種々の裏事情が蠢(うごめ)くことぐらい想像できますが、しょせんは想像しているだけに過ぎず、上記のごとき明瞭な解説をしていただくと非常に助かります。

ただ、わたしは航空技術の素人ですから、文章の信ぴょう性までは判断できません。

つぎに、氏はご著作にて諸外国を(妥当な理由を連ねつつ)くさす場合が少なくない反面、本書では、めずらしくもそうでないご意見をお書きになりました。

「『あの国』と手を組めば、米国をとっちめることができる」項。

戦後、米国は日本の学ぶ力に懲(こ)りた。それで自動車も航空機も一切の研究開発を禁じた。(中略)
このとき日本は日英同盟を思い出した。英国に頼んだら快諾してくれてそれでヒルマンやオースチンのノックダウンが日産などで始まった。(中略)
米国は原子力研究もすべて禁じた。原子力発電の導入すら禁止した。(中略)
で、このときも英国に頼んで英国製原子炉を入れてもらった。(中略)
今、英国が苦境にある。助けてもらってきたお礼に日英再同盟はどうか。(pp.152)

イギリスの「苦境」とは、おもにEU離脱にともなう同国の経済上の困難を指しているのでしょう。

わたしは「日英同盟(1902~1923)」がなければ「日露戦争」の成りゆきは危うかったと考えます。

ひとりの日本人として往年のイギリスの支援に感謝しており、著者のご提案に賛成いたします。

折しも、2020年9月、日英間の「EPA(経済連携協定)」が大筋合意にいたった旨が発表されました。

先方へのご恩返しになったと想像しますし、今後、日本政府はイギリスの「TPP参加」も後押ししてほしいと願っています。

なお、153ページ「トランプは真実を語っている」項が『トランプ、ウソつかない』なる書名につながったのだろうと推察されますが、当該項は、ドナルド・トランプ大統領の口癖である「フェイク・ニューズ」にからめ、米国メディアとりわけ『ニューヨーク・タイムズ』紙が反日的な捏造記事ばかり掲載していることへの、当てこすりでした。

金原俊輔

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