最近読んだ本308
『反日種族主義:日韓危機の根源』、李栄薫編著、文藝春秋、2019年。
上掲書は2019年に韓国で出版されてベストセラーになったものです。
同年11月には日本語訳が発売され、わが国でもベストセラーとなりました。
韓国が糾弾しつづけている日本の種々の暴挙や蛮行は、じつはほとんどがつくり話(つまりはウソ)だ、韓国人は愚かにもつくり話を信じこんで踊らされている、つくり話に基づき日本人を憎んでいる、大意このような主張を展開しています。
執筆陣は学者およびジャーナリスト。
全6名。
すべて韓国のかたがたでした。
学者のみなさまのご専門は日本経済史または韓国経済史です。
代表でいらっしゃる李栄薫教授(1951年生まれ)は「プロローグ 嘘の国」において、
韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています。2014年だけで偽証罪で起訴された人は1400人です。日本に比べ172倍だといいます。人口を考慮すれば、一人当たりの偽証罪は日本の430倍になります。虚偽に基づいた告訴、すなわち誣告(ぶこく)の件数は500倍だといいます。一人当たりにすれば日本の1250倍です。保険詐欺が蔓延(まんえん)しているのは周知の事実です。(pp.14)
という状況を振り返り、これから語られる本題に韓国側の「偽証」「誣告」「詐欺」が関与している可能性を示唆されました。
そして本題へ。
各執筆者は、朝鮮半島における日本の食糧奪取、強制動員、賃金差別、慰安婦問題、などを考察なさいます。
考察ののち、快刀乱麻を断つ勢いで、韓国人の言い分は正しくない、偽証・誣告・詐欺ばかりである、と結論されました。
すごい本です。
韓国の有識者がこのような書物を上梓された事実に感嘆の念を禁じ得ません。
また、わたし自身も心理学に関わる身ですので、学問の世界にて「ウソをつかない、認めたくはなくとも事実ならば認める」態度の重要さを再認識しました。
6氏を心から尊敬いたします。
多くの韓国人・日本人に読んでほしい作品です。
さて『反日種族主義』に接しつつ、わたしは懸念と違和感を抱きました。
はじめに懸念を説明します。
以前、
『帝国の慰安婦:植民地支配と記憶の闘い』、朝日新聞出版(2014年)
を書かれた朴裕河・ソウル世宗大学校教授(1957年生まれ)は、親日的な言論活動をおこなったとして韓国社会の逆鱗に触れてしまい、名誉棄損で訴えられ、有罪になりました。
『反日種族主義』の著者たちにも同様の災難が降りかかるのではないかと心配しているのです。
つぎに、違和感について書きます。
日本の植民地支配は同化主義を追求していました。植民地に日本の制度を移植し、できるだけ二つの地域を同質化させ、究極的には日本の一つの地方として編入しようとしたのです。朝鮮を、完全に永久に日本の一部に造り上げようとしたのです。(pp.56)
あるいは、
「植民地期に日帝は朝鮮の地から人材が出るのを防ぐため、全国の名山にわざと鉄杭を打ち風水侵略をした」。今まで我々社会では、このような話が伝説のように口伝えされて来ました。果たしてそうだったのでしょうか。それは事実ではありません。みな嘘です。(pp.161)
どちらの引用も、歴史の真実に迫る議論をしてくださっている文脈内にありました。
たいへん嬉しかったものの、わたしが問題視しているのは「植民地」という表現です。
日本は、1910年(明治43年)の「日韓併合」によって、大韓帝国を自国の統治下に置きました。
これは、植民地化したのではなく、いわば合併。
欧米列強がアジアやアフリカさらに南アメリカなどでおこなった植民地支配は、侵略・搾取・専制・奴隷制といった非人道的行為とワンセットになっており、いっぽう『反日種族主義』は日本の韓国統治はおおむね穏当だったとまとめた内容でしたから、書中における植民地の語の登場に抵抗をおぼえました。
ただし、日韓併合は民主的な対等合併ではなかったわけで、かの国の人々が「いや、あれは植民地同然のあつかいだった」とおっしゃる場合、いまの日本人は反論を述べる立場にはありません。
金原俊輔