最近読んだ本461
『おじさん酒場 増補新版』、山田真由美 著、ちくま文庫、2021年。
文筆業のみならず小料理屋経営もなさっている著者(1971年生まれ)。
関東・関西の酒場をめぐり、来店中のおじさんたちを観察し温かく批評なさるいっぽう、お店の自慢料理や名酒を紹介する、という趣向のエッセイをお書きになりました。
名酒場に欠かせないもうひとつの要素。それは、「ここが我が居場所」と日々通うおじさんたちである。居心地のいい酒場には、かならず味わい深い彼らの姿があった。(pp.320)
ひととひとの距離が近い、温度のある大衆酒場で出会うおじさんたち。彼らが見せてくれる世界に、わたしは絶景を感じていた。(pp.69)
著者に同行したのは「るみ画伯、別名おじさん博士(pp.16)」。
彼女のお名前は、なかむらるみ氏(1980年生まれ)です。
なかむら おじさんがいないと、酒場は締まらないですよぉ。(pp.287)
と、のたまう人物でした。
えらく「おじさん推し」なおふたりです。
『おじさん酒場』に登場した中高年男性諸氏は、「ラブラブおじさんたち(pp.14)」「背広が似合うおじさん(pp.32)」「醤油派のおじさん(pp.97)」「かわいい女の子の前で財布の紐が緩んでしまうおじさん(pp.110)」「たまご好きおじさん(pp.202)」「アンパイアおじさん(pp.214)」「おしゃべり好きなおじさん(pp.240)」……ほかにも大勢いらっしゃいました。
そして料理。
著者は料理について語られるとき、味の描写には深入りせず、どちらかといえばお品書きをならべるタイプです。
平貝刺身、皮はぎ刺身肝あえ、白子天ぷら、メゴチ天ぷら、桜海老かき揚げ、長芋の千切り、菊花ひたしポンズ、生しらすポンズ、うるめ、生タラ子、かしわとじ……。(pp.61)
焼きとり、こんにゃく田楽、ささみしそ巻き、いか、レンコン肉詰め、えのき茸。以上が本日のコース松。香ばしく焼かれた鶏ももとタマネギに甘辛いタレの焼きとり。こんにゃくも鉄板で焼き目をつけてから味噌ダレをかける。いかとささ身はあっさり塩味。豚バラで巻いたえのきのしゃっきり歯ごたえ。レンコン肉詰めはカレー味で、これまた酒呑み泣かせの一品だ。(pp.189)
ひとつのご工夫であり、これはこれで読む側の食欲を刺激します。
お酒のほうも、
〆張鶴(しめはりつる)、酔右衛門(よえもん)、伯楽星(はくらくせい)、秋鹿(あきしか)、神亀(しんかめ)など充実していた。(pp.126)
残念ですが、知らない銘柄ばかりでした。
さて、わたし自身、無数のおじさんたちと同様、町の居酒屋が大好きです。
広く、明るく、ガヤガヤ盛りあがっており、品数が豊富で和洋中韓エスニックなんでも注文できるようなお店に入ると、幸せをおぼえます。
本書を読みつつ、自分がそうした雰囲気に身を置いているかのごとき感じがし、楽しませていただきました。
ひとり呑みのおじさんには2タイプあるように思う。周囲に目もくれず、独りおのが世界に入って粛々と呑み重ねるおじさん。反対に、開放的で、店のひとや客とのコミュニケーションを好むおじさんもいる。(pp.62)
わたしの場合は前者。
いつも読書をしながら「独りおのが世界に」入りこんでおります。
ところで、『おじさん酒場』最後の居酒屋にて、とうとう新型コロナウイルスの影響が述べられました。
もとになった単行本は2017年に刊行され、2021年、文庫化にあたり著者が加筆修正をなさった時期、すでに感染症は拡大してしまっていたのです。
安堵したのは「酒場の日常」がしっかり守られていたことだ。(pp.272)
嬉しい文章ではありましたが、実のところ、深刻な打撃を受けた飲み屋さんは少なくないでしょう。
書内で触れられた各店舗に、その後どんな荒波が押し寄せてきたか、気にかかります。
金原俊輔