最近読んだ本542:『人生はそれでも続く』、読売新聞社会部「あれから」取材班 著、新潮新書、2022年

物事には「その後」があります。(pp.3)

読売新聞社のチームは上記の発想のもと、

過去の新聞記事や関係資料を丹念に調べ、「ぜひこの人に話を聞いてみたい」という人物を探す。関係者にアプローチして、その人物にたどり着く。そこからその人物 = 物語の主人公 = の話にじっくりと耳を傾ける。(pp.6)

全22名の男女に取材をなさいました。

対象者には「いまさら引っ張りだしてこなくても……」と思われる顔ぶれも含まれていましたが、ご本人たちがインタビューや出版を承諾されたのでしょうから、わたしが案ずる必要などありません。

ユニークな切り口の読物でした。

第6章「断れなかった:姿を現したゴースト作曲家」を見てみましょう。

登場するのは新垣隆氏。

「耳が聞こえない作曲家(pp.61)」として世間を欺いていた男性の、ゴーストライターだったミュージシャンです。

この事件に関する情報として、わたしは以前、

神山典士 著『ペテン師と天才:佐村河内事件の全貌』、文藝春秋(2014年)

に、目をとおしました。

率直に言って、つまらない低次元なできごと、こう受けとめましたし、新垣氏の責任とて軽くはないと考えました。

月日が過ぎて現在にいたり、氏は表舞台で活躍しだしていらっしゃるらしく、その点は祝福いたします。

つぎに、一時期、大学生たちの質問への当意即妙の回答が評判になった、東京農工大学生協、白石昌則氏。

さらに法政大や東洋大の生協でも店長に。(pp.173)

あちこちで独特のユーモアセンスを発揮されたのち、転職なさった由です。

読売新聞取材班がお話を聞きに行った際のやりとりでは、最後にちょっとしたオチをおっしゃり、同氏の面目躍如でした。

ところで、『人生はそれでも続く』にて語られた、別の人物の話題。

書内ではハッピーエンドだったものの、たまたま当方が本書を読了した2022年9月、そのかたが罪を犯し警察のお世話になったという報道に接しました。

わたしは、存命者の実人生を追うルポルタージュにおける人選のむずかしさを感じ、また、だれの人生にも潜んでいる危うさ、もろさに、あらためて気づかされました。

金原俊輔