最近読んだ本554:『ウクライナ戦争と米中対立:帝国主義に逆襲される世界』、峯村健司、小泉悠、鈴木一人、村野将、小野田治、細谷雄一 著、幻冬舎新書、2022年

ロシア連邦は、2022年2月、隣接するウクライナへ軍事侵攻を開始しました。

そしてまもなく1年が経とうとしています。

このできごとの呼称は今のところ完全には統一されておらず、メディアや個人によってまちまちなのですが、上掲書では「ロシア・ウクライナ戦争(pp.6)」と書き記されていましたから、わたしも当コラムにおいて同じ呼びかたを用います。

さて、『ウクライナ戦争と米中対立』は、青山学院大学客員教授の峯村氏(1974年生まれ)が、ロシアを調査対象としている学者、国際政治学者、日米安全保障政策の担当者、元・自衛隊空将、イギリス外交史の権威、以上5名のかたがたと個別に語り合った内容をまとめた対談集。

ウクライナ情勢にくわしい専門家がひとりも含まれていなかった点は気がかりだったものの、本の中身は啓蒙性が高く、参考になりました。

第1章は、ロシアの軍事および安全保障を研究されている東京大学専任講師・小泉氏(1982年生まれ)と峯村氏による意見交換で、

峯村  中国が今回の戦争から学習したと思うのは、「敵の補給路を潰す」ということです。ウクライナがロシア相手に善戦できているのは、西側のポーランドからの補給路が残っているからですよね。その生命線を潰されたら、生き残れない。中国が狙っている台湾は四方を海に囲まれているので、外部からの補給路を断つのはより簡単です。(後略)

小泉  たしかにそうだと思います。そこで逆に日本が学ぶべきなのは、やはり自衛能力がないと助けてもらえないということだと思うんですよ。ウクライナは最初の一カ月を、自前の正規軍と動員された兵隊と、あとはジャベリンだけでしのぎきった。(中略)台湾であれ日本であれ、そうやって自ら抵抗しなければアメリカも助けてくれないでしょう。(pp.71)

ジャベリンとは、対戦車用のミサイルだそうです。

この引用文で述べられている主張に、わたしは共鳴しました。

つづいて、ロシア・ウクライナ戦争にせよ、それ以外の戦争にせよ、現代の戦争について語る場合、「核(pp.197)」の存在を抜きにすることはできません。

第3章、アメリカ合衆国ハドソン研究所に所属され、日米防衛協力の政策プロジェクトに参画なさっている村野研究員(1987年生まれ)と峯村氏の対話では、

峯村  核の役割を再評価して議論するときがきていると私も思います。(後略)

村野  そもそも、これまで日本では核の議論自体がタブー視されがちでした。公職に近い人ほど、核の問題に言及するのはセンシティブだというのは、よく分かります。しかし、それでは目の前の現実に対応できません。だから核の議論をタブー視せずに行うことは当然あっていいでしょう。(後略)(pp.207)

わたしもこれは日本国民の安全を守るために避けられない流れと考えます。

まず、広島・長崎の人々が(もし可能ならば原爆被爆者の皆さまが)「タブー視しなくて結構」と声をあげてくだされば良いのですが……。

峯村氏とゲストたちの話し合いにおいては、表題内の「米中対立」にとどまらず、ロシア・ウクライナ戦争に端を発して起こり得る「日中対立」にも視線が注がれ、また、左記の関係で台湾有事に係る議論すら交(か)わされました。

わたし自身想定しておくべき大事な問題と思っていますので「タイトルと違うじゃないか」などと言うつもりは全然ありません。

金原俊輔