最近読んだ本318

『スマホ依存から脳を守る』、中山秀紀著、朝日新書、2020年。

最も注意しなければいけないことは、スマホやオンラインゲームの「無限性」です。やっても、やっても、またやれる。(中略)
やめるきっかけが無くなってしまうのです。一つのコンテンツやゲームはいずれ飽きるかもしれませんが、インターネットコンテンツやオンラインゲーム全体で考えると、「快楽」を「飽きず(飽きにくい)」に得られるという依存物ならではの特徴を、十分に持っているのです。(pp.30)

WHO(世界保健機関)は2019年5月、ゲーム依存を「ゲーム障害」なる精神疾患(要するに、心の病気)と認定しました。

しかし「病気である」旨を認めただけであって、ゲームの製作・販売・購入・使用に関しては指導あるいは規制などの取り組みをおこなっていません。

片手落ちなのではないでしょうか……。

中山氏(1973年生まれ)は上掲書にて、ゲームのみならずスマホ自体が依存物であり、人は、とりわけ青少年は、それらに接しだすやたちまち「依存症」になってしまう、と警鐘を鳴らされました。

氏は精神科医で、スマホ依存症を専門的に治療する神奈川県「久里浜医療センター」にお勤めです。

これまで多数のスマホ依存症者たちに会われた由。

その結果、強い危機感をおもちです。

わたしも大学教員であったこと、スクールカウンセラーであることから、若い人々におけるスマホ依存の深刻さを案じてきました。

自分自身はゲームに興じた経験がなく、スマホも所持していません。

ところが、自宅のパソコンで(おもにナツメロを聴こうとして)『YouTube』を開けば、あっという間に1~2時間が過ぎ、その吸引力に驚かされます。

おそらくスマホ依存症者たちはこうした吸引力の猛威に抗(あらが)いきれず、スマホ地獄の奥底へ呑み込まれてしまっているのでしょう。

著者は、スマホ依存を「脳内借金(pp.73)」にたとえたり、健全な一般的スポーツと健全ではない「eスポーツ(pp.160)」とを比較したり、種々のご工夫をなさりつつ論を進められました。

インターネットやオンラインゲームの依存症は、精神疾患ばかりでなく発達障害などを合併しやすいことでも知られています。(pp.151)

こんな重いご指摘も。

また、「プロゲーマー」という仕事があるせいで、

「プロゲーマー」を目指しているということが、周囲の批判や自己の罪責感をかわす強固で危険な盾(たて)になり、さらに依存症の悪化・長期化をまねく可能性があるのです。(pp.166)

目配りがゆき届いた至当なご意見でした。

思春期世代をはじめとした未成年者が依存症になると、回復に向かうことは成人よりも一層困難です。(pp.188)

同意します。

終盤では久里浜医療センターでの治療をくわしく紹介なさいました。

わたしが依拠する認知行動療法も使われている模様。

『スマホ依存から脳を守る』は、ぜひとも全国の学校図書館に所蔵してもらいたい秀作でした。

唯一、気になった点は「負の強化」という言葉です。

行動主義心理学「オペラント条件づけ」の専門用語のひとつで、なんらかの刺激が取り払われることにより人間の行動が定着または増加する動きを指します。

本書においては、負の強化が本来の意味で正しく用いられたり、「正の強化」と表現すべき箇所で誤って用いられたり、「負」でも「強化」でもない現象にたいして用いられたり、混乱が見られました。

金原俊輔

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