最近読んだ本328

『習近平 vs. 中国人』、宮崎紀秀著、新潮新書、2020年。

中華人民共和国では、習近平総書記に代表される「中国共産党」と国民たちとのあいだに深くて重苦しい断絶がある、この様相を詳述したルポルタージュです。

宮崎氏(1970年生まれ)は北京在住のジャーナリスト。

最初のページの第1行目が、

中国で取材していると、警察によく捕まる。(pp.3)

でした。

非常に危険なお仕事をなさっているといえるでしょう。

危険にめげず取材を敢行される氏に脱帽しますし、取材を受けてくださった中国人の皆さまに感謝いたします。

ところで、わたしは東アジア関連書籍をしょっちゅう読んでいるため、本作にはもともと知っていた中国情報が少なからず含まれていました。

権力者が好むのは金と色である。(pp.27)

こうした実態は他書でも頻繁に取りあげられます。

日本人女優の蒼井そら氏の人気も把握ずみ。

彼女が上海のモーターショー会場にあらわれた際は、

雄たけびとともに、カメラマンとカメラ小僧の山ができた。彼女がブースを移動すると、人の塊が、ドドド、と音を立ててミツバチの群れのように移動する。行った先々で記念写真を求められ、笑顔で手を振る彼女は、どんなピカピカの車よりも、注目を集めた。
カメラを首から下げた年配男性が、興奮気味に叫んだ。
「彼女は男たちの夢の中に出てくる女神みたいだ!」(pp.181)

たいしたものです。

王立銘氏。

風刺漫画を描き、変態辛椒(激辛唐辛子の意味)のペンネームでネットに発表していた。ところが、日本を旅行中だった2014年8月、中国のネットショップのアカウントが突然、凍結された。王さんは、身の危険を感じ帰国を断念。その後、埼玉大学の研究員の身分を得て、この寮で妻と2人で事実上の亡命生活を送っていた。(pp.217)

わたしは、王氏の作品である、

辣椒作画『マンガで読む 嘘つき中国共産党』、新潮社(2017年)

を、数年前に繙読しました。

あっさりした絵柄が心地よく、内容は切実、共感をおぼえました。

以上が『習近平 vs. 中国人』を読まずとも知悉していた話題の例なのですが、わたしが不案内だった話で、そしておどろいたのは、カウンセラーが登場した箇所です。

「花夫人」なるハンドルネームにて「ネット上の有名人(pp.211)」状態の彼女は、むかしは大学の心理学教授でした。

2015年、個人的なインターネット活動を当局から問題視されてしまい、

給料から手当の一部が取り消された。さらに大学の党委員会の書記に呼び出され、自ら辞職を申し出るよう強要された。(中略)
そして今後は、密室で行う1対1の心理カウンセリングをしてはならない、と命じた。(pp.214)

自分の同業者に起こった不幸をお気の毒に存じますし、そうしたなかで気丈に生活なさっている彼女を尊敬いたします。

さて、本書が紹介した政府と庶民たちが二分されている社会、どちら側に非があるかといえば、それはもちろん政府のほうです。

かの国の人々に同情を禁じ得ません。

今後どうなるのでしょう……。

新型コロナウイルス感染症のせいで視界不良な中国経済。

国民の不安や不満が高まっています。

そのうえ中国政府による当該感染症の情報公開遅延を各国が糾弾しだしました。

中国の立場は袋小路に入ったと見てよいのではないかと思われます。

わたしは、このまま流れが伸展すれば同国の国連離脱やもっと最悪の事態(戦争など)にいたってしまうのではないか、と危惧しているところです。

金原俊輔

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