最近読んだ本354

『回想の織田信長:フロイス「日本史」より』、ルイス・フロイス著、中公文庫、2020年。

ポルトガル出身のカトリック宣教師ルイス・フロイス(1532~1597)は、戦国時代のわが国で布教活動をおこない、30年を超える滞日中の見聞を『日本史』という本にまとめました。

彼は織田信長(1534~1582)と昵懇(じっこん)で、信長の生前、直談の機会が幾度もあった模様です。

『回想の織田信長』は、フロイス著『日本史』において、織田信長が登場してくる箇所だけを集めたもの。

主役以外にも多数の有名武将たちが姿を現わします。

架空の話ではなく、著者が実際に接した面々ですから、『回想の~』書が所持する高い資料的価値を思わざるを得ません。

さて、フロイスが描写した信長は、われわれ一般人がドラマだの歴史小説だのを通して得ている印象そのままでした。

極度に戦(いくさ)を好み、軍事的修練にいそしみ、名誉心に富み、正義において厳格であった。彼は自らに加えられた侮辱に対しては懲罰せずにはおかなかった。(中略)
非常に性急であり、激昂はするが、平素はそうでもなかった。彼はわずかしか、またはほとんどまったく家臣の忠言に従わず、一同からきわめて畏敬されていた。(pp.29)

なんの意外性もなく、ドラマ・小説はフロイスの文章を参考に信長像を設定しているのではないかとすら感じました。

信長は、その子供たちに対しても顧慮するところがなく、彼らからさえ恐れられていたので、進んで彼と話そうとする者はなく、誰も皆彼の気にさわるようなことは避けるように注意していた。(pp.144)

わたし自身にとっては新情報ながら、類推することが困難ではないエピソードです。

かたや、明智光秀(1528?~1582)。

その才略、深慮、狡猾さにより、信長の寵愛を受けることとなり、(後略)。
裏切りや密会を好み、刑を科するに残酷で、独裁的でもあったが、己れを偽装するのに抜け目がなく、戦争においては謀略を得意とし、忍耐力に富み、計略と策謀の達人であった。(pp.231)

これまた、おおむね当方が抱くイメージに合致しているのですが、「刑を科するに残酷で、独裁的でもあった」のは、ついぞ知らなかった一面でした。

『回想の織田信長』は、とても興味深く、日本史が現代にどう反映しているのかを振り返させられた、重要古典です。

いっぽう、ふたつの疑問をもったので、書かせてもらいます。

ひとつは、フロイスが当時の仏教者たちを「悪魔(pp.81)」としか見做(みな)していなかったこと。

悪魔なる表現は、書内のあちこちで用いられました。

もうひとつは、「本能寺の変」のとき、信長側には奴隷から士分に取り立てられたアフリカ生まれの弥助(生年・没年は不詳)がいて奮闘したのですが、その人物に関する言及がなかったこと。

フロイスは白人で、弥助が黒人だったため、ひょっとしたら存在を軽視してしまったのかもしれません。

他宗教への不寛容さ、他民族にたいする差別(わたしの見当違いの可能性あり)……、左記は「そういう時代だった」と了知すべきであろうものの、すこし釈然としない読後感になりました。

金原俊輔

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