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『愛国心:日本、台湾 我がふたつの祖国への直言』、金美齢著、ワニブックスPLUS新書、2020年。
金氏(1934年生まれ)は、台湾台北市ご出身の女性。
台湾独立をめざし奔走されてきた活動家であるうえ、論客としても高名な人物です。
2009年に日本国籍を取得されました。
私には覚悟があります。
もしも日本と母国が対立することになれば、母国に弓を引いてでも日本の側に立つ ― 。私は日本国籍を取得した後は、自分の中での優先度を第一に日本、第二に台湾であるとはっきりと決めています。(pp.63)
いろいろなご著書をとおして、わたしは氏がどれほど台湾を愛していらっしゃるかを存じあげています。
にもかかわらず上記のお言葉を記されたわけですから、固い決意を感じさせられました。
もしかすると多数の日本人(なかでも若者たち)には大げさな発言に聞こえるかもしれません。
しかし、国と国民の関係というのは、本来こうした緊張があっても不思議ではないのではないでしょうか。
アメリカ合衆国みたいな人造国家だと緊張が顕著で、なんというか、根底に「イザとなったら、自分が銃をとり祖国を守る」的な雰囲気がピリピリ漂い、わたしは滞米時にそれを感じました。
おそらくイスラエルなども同様なのでしょう。
『愛国心』では、一般的な日本人における国を想う気もちの弱さ、国家意識の薄さが、きびしく糾弾されました。
たとえば、
東日本大震災後、災害派遣活動に従事する自衛官たちのひたむきな姿勢が広く知られ、今や自衛隊は日本国民から最も信頼を得る組織になりました。しかしそれでもまだ、憲法では「軍隊ではない」とされたままで、あえて自衛隊を評価するような記事は、朝日新聞には掲載されない。「自衛隊の第一義は災害派遣にあらず、外敵から国家・国民を守ることである」ことすら、国民が十分理解しているとは言いがたい。そうした状況は改善されないままです。(pp.51)
重要な問題提起です。
また、金氏は、われわれ読者が「自分は社会のため、国のために何ができるのか、何をすべきなのか(pp.47)」を主体的に考える必要性も訴えられました。
その流れで、1961年、アメリカのジョン・F・ケネディ(1917~1963)第35代大統領がおこなった大統領就任演説が引用されています。
世界の長い歴史の中で、自由が最大の危機にさらされているときに、その自由を守る役割を与えられた世代はごく少ない。私はその責任から尻込みしない。私はそれを歓迎する。(中略)
米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。(pp.47)
わたしはアメリカの英語学校の授業で当該演説を知り、感銘を受けました。
最後に、著者は台湾の元・総統、李登輝氏(1923~2020)を敬愛されていることから、書中たびたび同氏について言及しておられます。
そして偶然ですが、わたしが本書を読んでいた2020年7月末、李氏はお亡くなりになりました。
わたし自身、氏を深く尊敬しており、訃報に接した際には「巨星墜つ」の哀傷で胸が塞(ふさ)がりました。
著者も悲嘆に暮れていらっしゃると確信いたします。
金原俊輔