最近読んだ本373

『平成の裏仕事師列伝 ビヨンド』、株山栄、佐藤正喜、他 共著、鉄人文庫、2020年。

悪徳教材セールスマン、プロ野球賭博の胴元、スキャンダル製造屋、ヤミ蟹ブローカー、不徳義デベロッパー……、日本社会の枠外で蠢(うごめ)いている人々を探しだし、インタビューを敢行した、アングラなビジネス・パーソン伝です。

全25名の「裏仕事師」が登場しました。

世間にそれほど悪影響をあたえていないであろう業界人が含まれていましたし、結構なかなかに微笑ましい仕事をしている人物すら取りあげられていた反面、犯罪者も少なくありませんでした。

第24章「人さらい」氏は、まさに法を破っています。

なにも知らない若い女性たちを外国に売り飛ばす「人身売買」をおこなっているのですから。

誤解してると困るから言っとくと、オレは暴力団と何のかかわりもないカタギの人間だよ。(pp.448)

いや、人さらい業に従事するような輩(やから)を「カタギ」とは呼びません。

この章、わたしは激しい怒りをおぼえました。

つぎの引用へ進みます。

訪問先の住人をだまし、デタラメな品物を売りつけている男性。

氏は、常に団地かアパートにしか向かわない。田舎の一軒家には必ず老人がいて、ややこしいことになるからだ。
「奥さんも一人で決められないから、年寄りとあれこれ話し合うんですよ。オヨネ(おばあちゃん)相談って言うんですけどね」(pp.91)

オヨネ相談……、あんがいユーモアは冴えているみたいです。

高齢者をねらう昨今の「オレオレ詐欺」とは正反対な発想でした。

悪だくみも内容によってはターゲット層が異なるわけです。

最後は「オンラインカード詐欺師」章。

難攻不落と思われたセキュリティシステムの網の目を朽木氏はどうやってくぐり抜けたのか。
「まず、カード会社とか銀行のホームページにアクセスしてから侵入するのはほとんどムリやった。さんざん試したけどさっぱりアカン。で、思ったんです。目先を変えて、イントラネットを叩いたらどうやと」(pp.132)

「一番驚いたのはオレですよ。まさか、こんな基本の理屈で侵入できるとは思ってもなかった。危機管理ちゅうことば知らんのかいってなもんですわ」(pp.134)

これだけの技術と根気を兼ね備えているのに、取材後、逮捕され刑務所へ入ったそうです。

出所のあかつきには、技術・根気を建設的な分野でおつかいになられるよう祈念いたします。

以上、読まなくても構わない本ではありましたが、こういう種類の情報を仕入れておき、自分が被害者にならない布石を固める、そんな流れを実現させるために便益がないとはいえない書籍、と感じました。

金原俊輔

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