最近読んだ本390

『台湾に水の奇跡を呼んだ男 鳥居信平』、平野久美子著、産経NF文庫、2020年。

鳥居信平(1883~1946)は静岡県生まれの水利技師でした。

1917年(大正3年)に台湾へ赴き、南部・屏東県の広大な荒れ地に「地下ダム『二峰圳(にほうしゅう)』(pp.29)」を築きました。

これは、

川床に設けた地下堰堤によって溜まった水が、人工の涵養池と同じように働き、川床に浸み込んだ水が、濾過されながら溜まる(後略)。(pp.153)

という仕組みのダムなのだそうです。

完成まで約5年を費やしました。

完成した結果、

乾期でも作物ができるようになったので、収穫量はうなぎのぼりに増えた。サトウキビの収穫高は、それまで1ヘクタールあたり1万~2万斤(約60~120トン)にすぎなかったのに、平均して8万斤(約419.6トン)にもなった。(pp.145)

こうなりました。

さらに喜ばしいことは、2007年、台湾の、

行政院の文建委員会は、二峰圳の集水廊道から分水工までの区間を、風景文化資産に認定した。そこに台湾と日本を結ぶ未来志向の水の絆を感じる。(pp.228)

日台間がいっそう近しくなった点です。

上掲書は、鳥居の業績や人生の軌跡を調べあげ、集約した作品。

著者にとって「テーマは、正直言って文系の頭には難解だった(pp.246)」由ですが、ご勉強なさった内容を分りやすい語り口にてお伝えくださいました。

文系の読者である当方には、ありがたいかぎりです。

わたしは鳥居信平に関しまったく無知だったものの、八田與一(1886~1942)とおなじく台湾と日本の結びつきに好影響をあたえ、歴史に足跡をのこした偉人である、と認識しました。

さて『台湾に水の~』内に、こちらの想定外だった情報がふたつあったので、紹介いたします。

まず、ひとつめ。

鳥居は、東京帝国大学時代の恩師・上野英三郎博士の勧めで台湾行きを決意しました。

博士は、日本における近代的な農業土木と農業工学の創始者であり、都内の渋谷駅前と秋田県大館駅前に銅像のある「忠犬ハチ公」の飼い主としても知られている。(中略)博士と愛犬のほほえましい姿は近所で評判になっていたほどだ。(pp.76)

だめです、「ハチ公」の話に接するたび、わたしは感情が動き涙ぐんでしまいます……。

つづいて、ふたつめ。

戦後の1973年に、長崎県野母崎町(註・現在の長崎市)に「樺島(かばしま)ダム」が完成するまで、日本国内に地下ダムは実在しなかった。しかし、その樺島ダムも現在は機能していない。つまり、植民地だった台湾に、大正時代に造られた二峰圳が日本の地下ダム第一号であり、戦前から現在まで活躍している希少なものということになる。(pp.218)

いきなり自分の地元が登場し、おどろきました。

そうだったのですか。

わたしは地下ダムという言葉自体を存じておらず、意義も不案内だったのが、本書のおかげで知識を積むことができました。

金原俊輔

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