最近読んだ本393

『女帝 小池百合子』、石井妙子著、文藝春秋、2020年。

わたしは、上掲書が書店の台で平積み状態だったことは知っていたものの、読む気はまったくありませんでした。

なぜかといえば、ひとつは小池東京都知事に興味がなかったため、もうひとつは「たぶん俗悪な暴露本なんだろう」と勘違いしていたため。

ところが2020年末、読売新聞社および長崎新聞社による「今年の全出版物中の名著」みたいな書評欄で、2社の選者どちらもが『女帝 小池百合子』を推していたのです。

わたしは驚き、すぐさま本を購入しました。

著者(1969年生まれ)は、おもに小池氏がエジプトの名門カイロ大学文学部社会学科を「首席(pp.60)」で「卒業(pp.60)」したのかどうかを検証しながら、氏の不誠実で虚飾にまみれた半生を描述なさいました。

新聞にて取り上げられただけあって、わたしも力作と感じる読物でした。

政治の動きと小池氏の動きとが重なり合うように語られています。

客観的な事実に加え、著者の推測も書かれていました。

そして、もし書内で提供されている情報が正しいとしたら、おそらく小池氏はカイロ大学を卒業していない、つまり「学歴詐称(pp.65)」をしている、こう想像されます。

となると「公職選挙法に違反(pp.62)」します。

この件、本書では「卒業証書」の真偽が重視されていたのですが、わたしは「成績証明書」のほうにも注意を向けてみてはいかがかと思いました。

成績証明書は在学時の勉強ぶりが細かく記されている書類だからです。

ただし、エジプトは「コネと金がすべて(pp.177)」な国風の由ですので、成績証明書とて偽造は簡単で、けっきょく決め手にはならないでしょうが……。

わたしは先ほど本書を「力作」と評しました。

では、読み終えた感想はどうだったか?

当方には小池氏の生きかた・ありかたが不快で、たいそうイヤな読後感に陥りました。

1996年、「阪神淡路大震災」の被災者たちが参議院議員であった氏を議員会館に訪ねた際のやりとりを引用します。

窮状を必死に訴える彼女たちに対して、小池は指にマニキュアを塗りながら応じた。一度として顔を上げることがなかった。女性たちは、小池のこの態度に驚きながらも、何とか味方になってもらおうと言葉を重ねた。ところが、小池はすべての指にマニキュアを塗り終えると指先に息を吹きかけ、こう告げたという。
「もうマニキュア、塗り終わったから帰ってくれます? 私、選挙区変わったし」(pp.215)

げっそりです。

さらに、北朝鮮拉致問題の被害者ご家族を前に小池氏が心ない言動をした(226ページ)、アスベスト被害者たちにウソをついた(249ページ)、などのエピソードが紹介されました。

プライベートな人間関係の逸話も実にひどく、読みつづけるのが困難に感じられる一冊でした。

小池氏の身辺を取材し評伝としてまとめられた著者にとっても、憂鬱なお仕事だったのではないか、と拝察・同情いたします。

否定的感情を抱かず吟味できる対象者が他にいたでしょうに(たとえば、緒方貞子氏のような)。

最後の意見ですが、わたしは『女帝 小池百合子』に接し、小池氏を「女帝」化させてしまった日本メディアの調査力不足や追及力不足が痛く気になりました。

メディアの調査力不足・追及力不足に起因する弊害は、同氏以外の人々に関しても、多々生じていることでしょう。

金原俊輔

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