最近読んだ本432

『食べるぞ! 世界の地元メシ』、岡崎大五 著、講談社文庫、2021年。

岡崎氏(1962年生まれ)は、青年時代にバックパッカーとしてタイ・ネパール・インドネシア・マレーシアなどを放浪、やがて海外旅行専門の添乗員となられ、現在は日本に住み著述活動をなさっているかたです。

これまで訪ねられた国々は計85カ国とのこと。

上掲書は、ご自身の体験を土台にお書きになった、各地「地元メシ」の紹介でした。

地元メシなる言葉の定義は「そんじょそこらの地元の人に愛され、食べられ、定着している料理(pp.9)」です。

そして、出てくるわ、出てくるわ、書中、数えきれないほどの地元メシが登場してきました。

例をあげましょう。

著者および奥様が、中米グアテマラにて、

注文したのは『ポジョ・ア・ラ・パリージャ』、チキングリルだ。
ビールを飲みつつ待つこと数分、堂々とした大きさの、骨付きチキンの腿肉(ももにく)が出てきた。手に持ってかぶりつく。
「こ、こ、これは!」
瞬時に衝撃が走った。なんというチキンだ!
ジューシーでありながら、ブロイラーのような水っぽさがまったくない。かといって肉が引き締まり過ぎてもおらず、ちょうどいい感じの噛みごたえで、旨味が口いっぱいに広がった。(pp.208)

パキスタンの寝台列車では、現地の乗客からカレーやナンを勧められ、

久しぶりに油ギトギトのマトンカレーを食べてみた。すると、やけにうまい気がした。肉の臭みがまったくないのは、ミントとコリアンダーが入っているせいだろう。お盆ほどの大きさもあるナンを3枚も平らげた。すでにパキスタンに来て3週間が経ち、乾いた灼熱の気候に体が馴染み、油分を欲しがっているのだ。(pp.246)

おいしげな描写です。

こんな調子で岡崎氏は世界あちこちの地元メシを語ってゆかれました。

以上は、高い筆力をおもちでないと一本調子な文章に陥ってしまう、とてもむずかしい作業でしょう。

氏のお力に刮目いたします。

もうひとつ刮目に値したのは、豆情報をあまた披露してくださるサービス精神。

ノルウェーは、サーモンではなくタラの国であった(後略)。(pp.76)

国際姉妹都市制度を提唱し、現在のような形に推進したのは、第二次大戦後の、米アイゼンハワー大統領である。(pp.181)

ニワトリの起源は東南アジア説が有力で、世界で養鶏が進み始めたのは18、9世紀というから、意外に遅い。(pp.208)

ナンは、実はインドではあまり出てこない。(pp.246)

日本のカレーパンは、ロシアのピロシキが起源とされている。(pp.270)

読者は読みながら新しい知識を身につけることができます。

わたしは『食べるぞ!~』をおもむろに閉じたのち、「さて、自分が居住する長崎市の地元メシって、いったい何だろう」と、考えをめぐらさざるを得ませんでした。

市内のみんなに愛され、選ばれ、当たり前になっている食事。

ちゃんぽん・皿うどんは、紛(まが)うかたなき地元メシでしたが、いまや地元メシを超え、全国的な知名度を有しています。

つづいて、トルコライス。

わたしは好きですけれども、大勢に支持され食されている料理かというと、そこまでにはたどりついていないような気が……。

お蕎麦は、長崎県対馬市が本邦発祥の地であるのに、なぜか長野県のほうが世に聞こえてしまい、また、長崎市民が日々夢中になって蕎麦をたぐっているわけでもありません。

あっ、卓袱(しっぽく)料理!

かなり高級なコースであるため「メシ」呼ばわりはできないものの、同料理のなかの一品「角煮まんじゅう」は、頬張りやすく、老若男女に好まれ、お手頃価格、わが街伝統の地元メシと見なせる存在ではないでしょうか。

金原俊輔

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